つか)” の例文
男は象眼ぞうがんのある刃や蛇皮を巻いたつかの鉄の武器、銅の武器を持たぬはなかった。びろうどや絹のような布は至る処で見受けられた。
アフリカの文化 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
満足げに首肯うなずき首肯き小高い土盛りの中央に月の光を背にして立った。今一度、勢よく軍刀のつかを背後に押しやって咳一咳がいいちがいした。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
抜く手まねでもしたら横ッ飛びに消えてゆくであろうと、天蔵が、大太刀のつかを一つたたいて見せると、日吉は、にやっと白い歯を出して
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一度その軍刀が赤くなった事もあるように思うがどうも手答えはしなかったらしい。その中に、ふりまわしている軍刀のつかが、だんだん脂汗あぶらあせでぬめって来る。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それが去年の秋頃から僕に近づくように努める。僕は例の短刀のつかを握らざることを得なかった。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかしそれでもまだ彼は真逆まさかに信じたくはなかつた。だが二つとも一様に特殊な型をしてゐるし、つかと鞘とに同じく施された雑多な配色の華麗な点も似てゐるのであつた。
錦の袋では脅かされたが、中から出たのは蝋色ろういろ朱磯草研出しゅいそくさとぎだしのさや山坂吉兵衛やまさかきちべえ小透こすかつば鮫皮さめかわ萌黄糸もえぎいと大菱巻おおひしまきつか、そこまでは平凡だが、中身を見るまでもない。目貫が銀の輪蝶りんちょう
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
私はそれを振り上げるが早いか、彼の襟くび目がけてつかとおれと突き立てました。
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
彼は生皮革なまがわで巻いたマキリのつかをシッカリと握り直した。谷川の石で荒磨あらとぎを掛けたそりの強い白刃しらはを、自分の背中に押し廻しながら、左手で静かに扉を押した。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
清正は香染こうぞめの法衣ころもに隠した戒刀かいとうつかへ手をかけた。倭国わこくわざわいになるものは芽生めばえのうちに除こうと思ったのである。しかし行長は嘲笑あざわらいながら、清正の手を押しとどめた。
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
で、彼は一秒間の躊躇もなく、まるで死物狂いになった獣のように、寝台へ駆け寄るが早いか、ナイフを振りあげて怒れる掛け声もろ共、老人の胸を続けざまに二度つかもとおれと突き刺した。
空家 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
しかし、御傍おそば御用の日記取調べましたるところにては、初代長光の御脇差。こしらえは朱磯草研出しの蝋色鞘。山坂吉兵衛の小透し鍔に、鮫皮萌黄糸の大菱巻のつか。目貫には銀の輪蝶りんちょうの御定紋。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
僕はランプを吹き消して、窓を明けて屋根の上に出て、窓をそっと締めた。露か霜か知らぬが、瓦は薄じめりにしめっている。戸袋の蔭にしゃがんで、懐にしている短刀のつかをしっかり握った。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
血だらけの白チョッキに刺さっている短剣のつかの処と、轟氏の死顔を静かに繰返し繰返し見比べていた……
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
刺さっている刃物の十字形のつかを、鼻紙で用心深く拭い上げ、事務机の一番下の曳出ひきだしから生蕃小僧の脅迫状を探し出して、そのうちの一枚を元に返しながら懐中し
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
犬田博士の話の切目を待兼ねていた司法主任が、多少の興奮気味に佩剣はいけんつかを引寄せた。
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
佩剣はいけんつかをガチャリと背後に廻して、悠々と白樺の林の外へ歩き出した。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)