椰子林やしりん)” の例文
椰子林やしりんの中の足高の小屋も、樹を切り倒している馬来人マレイじんの一群も、総て緑の奔流に取り込められ、その飛沫ひまつのように風が皮膚に痛い。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
椰子林やしりんの中の観海旅館シイ・ヸイ・ホテルに少憩して海に近い廻廊ベランダ珈琲カフエエを喫しながら涼を入れた。ホテルの淡紅色の建物が周囲と好く調和して居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
見ると彼方に一むら椰子林やしりんがあった。一隊の兵と数りゅうの旗が、一輛の四輪車を押し出してくる。孟獲は悪夢の中でうなされたようにあッと叫んで引っ返しかけた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
途中は一面の大椰子林やしりんで、その奥へ折折をりをり消えてく電車や、床下の高い椰子やしの葉を葺いた素樸そぼく田舎ゐなかやしろがぽつんと林の中に立つて居るのなどが気に入つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
事務所は椰子林やしりんの中を切りひらいて建てた、草葺くさぶきのバンガロー風のもので、柱は脚立のように高く、床へは階段で上った。粘って青臭い護謨のにおいが、何か揮発性の花の匂いに混って来る。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
最高楼から先刻通つて来た大椰子林やしりんを越えて市街、港内、対岸の島を眼下に収め、左右両翼をひらいた山の樹間このまに洋人のホテルや住宅の隠見いんけんするのを眺めながら、卓を囲んで涼をれた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
雨後すぐに真白にえて、夕陽に瑩光えいこうを放っている椰子林やしりんの砂浜に出た。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)