松明まつ)” の例文
さうしてそのまはりには仕丁たちが、手ん手に燃えさかる松明まつを執つて、煙が御縁の方へ靡くのを氣にしながら、仔細らしく控へて居ります。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
我は嘗ておん身をめとりしことなし。誰かおん身が婚儀の松明まつを見しものぞ。この詞を聞きたるときの心をば、ヂドいかに巧にその眉目の間に畫き出しゝ。
丁度月のない晩だったから、私は松明まつなどお持たせするように言いつけた。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
いはほくろとき松明まつまぼろしてらし、しろとき釣舟草つりぶねさうまどれた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「なんであろ。また松明まつのあかりが彼方から見えてくる」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さうしてそのまはりには仕丁たちが、手ん手に燃えさかる松明まつを執つて、煙が御縁の方へ靡くのを気にしながら、仔細しさいらしく控へて居ります。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
(「ラクリメエ、クリスチイ」とて葡萄酒の名なり。)こは遊覽の客を護りて賊を防ぐものなりとぞ。われ等を望み見て身を起し、松明まつを點じて導かんとす。
おほせを聞くと仕丁の一人は、片手に松明まつの火を高くかざしながら、つか/\と車に近づくと、矢庭に片手をさし伸ばして、簾をさらりと揚げて見せました。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
門前には大篝おほかゞりを焚かせたり。賓客の車には皆松明まつとりたる先供あるが、おの/\其火を石垣に設けたる鐵の柄に揷したれば、火の子ほとばしり落ちて赤き瀑布カスカタを見る心地す。
けたゝましく音を立てて燃える松明まつの光は、一しきり赤くゆらぎながら、忽ち狹いはこの中を鮮かに照し出しましたが、𨋳とこの上にむごたらしく、鎖にかけられた女房は——あゝ、誰か見違へを致しませう。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)