摩耶まや)” の例文
米と塩とは尼君がまちに出できたまうとて、いおりに残したまいたれば、摩耶まやも予もうることなかるべし。もとより山中の孤家ひとつやなり。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「道誉。事にわかだが、御辺はここを脱けて、近江へ帰ってくれまいか。摩耶まやの裏を越えて、丹波へ出れば、敵にも出会うまい」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「だからさ、こう云う所は文楽あたりじゃあめったに出さないんだと見えるね。次には『摩耶まやたけの段』と云うのがある」
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
試みにやはり『灰汁桶あくおけ』の巻について点検すると、なるほど前句「摩耶まや」の雲に薫風を持って来た上に「かますご」を導入したのは結構であるが
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
摩耶まや霧島きりしま榛名はるな比叡ひえい竜城りゅうじょう鳳翔おうしょうの両航空母艦をしたがえ、これまた全速力で押し出し、その両側には、帝国海軍の奇襲隊の花形である潜水艦隊が十隻
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そうね、あたしも先刻さっきからそう思っていたけれど、摩耶まやちゃんが淋しがると思って言わなかった。」
おさなき灯台守 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
愛宕あたご』『高尾たかお』『摩耶まや』『鳥海ちょうかい』『那智なち』級四隻もいる。『加古かこ』もいる。『青葉あおば』もいる。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
「いつか、摩耶まやへ遊びに行ったのが最後だったわね。いっこうに音沙汰がないから、こんどこそ、ほんとうに死んだんじゃないかって、咲子さんと噂したこともあったのよ」
姦(かしまし) (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
わずかの人数で英国兵の一隊に応戦すべくもない備前方があわてて摩耶まや山道に退却したとのうわさも伝わった。この不時の変時に、沿道住民の多くはその度を失ってしまった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
摩耶まやちち長閑のどにふふますいとけなき仏の息もききぬべき日か
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
同じ巻でも「の日」と「春駒はるこま」、「だびら雪」と「摩耶まやの高根に雲」、「迎いせわしき」と「風呂ふろ」、「すさまじき女」と「夕月夜おか萱根かやね御廟ごびょう
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
降りぬいたあとだけに、空は拭われたように青く、大気は澄み、西は鉄拐てっかい山、横尾山、高尾、再度山ふたたびさん、ひがしは摩耶まや、六甲まで眉にせまるほど近くに見える。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつのまにか明石あかしの舟別れの段が済み、弓之助の屋敷も、大磯おおいその揚屋も、摩耶まやヶ嶽の段も済んでしまったらしく、今やっているのは浜松の小屋のようだけれど
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのすき目懸めがけて、摩耶まやを司令艦とする高雄たかお足柄あしがら羽黒はぐろなどの一万噸巡洋艦は、グングン接近して行った。まとねらうは、レキシントン級の、大航空母艦であった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ここに燈台のやぐらでは、父のため、多くの難船した人のため、摩耶まやはあらん限りの力で霧笛きりぶえを吹いた。
おさなき灯台守 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
どっしりした第七戦隊の『羽黒はぐろ』『摩耶まや
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
いまも、その摩耶まやをつれて、外へ出たきり見えないので、たれよりも、気をもんだのは、お茶々であった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
摩耶まや谷間たにまにほろほろと
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
摩耶まやたけノ段
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すでにどこにも旗影の見えぬをみれば、あとはチリヂリ摩耶まや方面へでも影をひそめたものではないか。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
摩耶まや、ひよどり越え、高取山、栂尾山、すべての山勢が並び立った下の野や丘や幾筋もの河口に、遠く近く、わびしい民家が散在して見え、長い曲浦きょくほの線がうねうねと白い。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして道誉はこの深夜ひそかに一族一隊をつれて、摩耶まやの裏越えから戦線を脱落し去った。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
摩耶まや、一ノ谷、高取山、須磨方面から神戸市街も一望にでき、素人戦略観にはじつに絶好なのである。——土質、そこらの草木、往時の水脈、低地の古池——そんなものまで目に浮かぶ。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きのう、清盛の雪ノ御所をたずねて、麓まで行った会下山えげさんは眼のまえだ。摩耶まや鉄拐てっかい鉢伏はちぶせなど、神戸から須磨すま明石あかしへかけて、市街の背光をなしている低山群も、山姿すべてあざらかである。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)