拇印ぼいん)” の例文
血だらけになったのをどこかへ捨てたんだろう——その剃刀さえ見付かれば、口書くちが拇印ぼいんがなくたって、処刑台おしおきだいに上げられる女だ
「この金を受取るにも、生憎認印を持っていないと言ったら、拇印ぼいんを捺して行きなさいだってさ。僕は拇印なんか捺したことは初めてだ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「死んだおやじは明きめくらだったから、証文といっても拇印ぼいんだけで、それが本当におやじのしたものかどうかさえ調べることはできない」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
不破に関する書類だけれども、一応目を通して、もし賛成ならば署名と拇印ぼいんを押して呉れと言う。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
我々の考へてゐるやうなわけにはゆかないものらしく、何もわけの分らない十三歳の男の子に、拇印ぼいんを押させ——そんな子の拇印なぞが、それ程役所には大事なものか知ら。
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
只親指に墨を塗り姓名の下に押す、即ち拇印ぼいん爪印つめいんとも申ます、平常ふだん実印を用いても、ごく八釜やかましい事、即ち調べを受けて証拠でも取られるというような時に至って、必ず拇印をいたしますが
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
観念した友田は、ふるえる手で、署名をし、親指で、拇印ぼいんを押した。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
もうそのときした拇印ぼいんの血は乾いてうるしのような色をしている。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから三日、必死の探索も何の役にも立たず、小染は口書き拇印ぼいんを取られて、いよいよ送られるばかりになりました。
またそれぞれの拇印ぼいんしてあった
拇印ぼいんを」と、彼のしるしを取って
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大抵のお白洲しらすでは、筋書通りそれを繰り返して口書くちがき拇印ぼいんを取り、最後の言ひ渡しをするだけであつたのです。
「林彦三郎は口書くちが拇印ぼいんも済んで、伝馬町へ送られるという話だ、困ったことだな」
「林彦三郎は口書くがき拇印ぼいんも濟んで、傳馬町へ送られるといふ話だ、困つたことだな」