おこ)” の例文
はげしい生の歓喜を夢のようにぼかしてしまうと同時に、今の歓喜に伴なう生々なまなましい苦痛もける手段をおこたらないのである。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
重候へ共茲ぞ恩の報じどきと存じ夜の目も眠ず賃苧ちんををうみて看病おこたりなく致せし事は家主始同長屋の者をお尋ありても相知申すべく候かく難儀なんぎの暮を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
食し、常に称名しょうみょうおこたる事なし
気の毒だと云う念が胸一杯になったため、ついそちらに気が取られて、流しの方の観察をおこたっていると、突然白い湯槽ゆぶねの方面に向って口々にののしる声が聞える。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また逗留とうりゅうするなら逗留する所から、必ず音信たよりおこたらないようにして、いつでも用ができしだいこっちから呼び返す事のできる注意をしたら好かろうと云った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その上、色もよほどめた。小野さんは節穴を覗く事をおこたるようになった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
綺麗好きれいずきな母が始終しじゅう気をつけて掃除をおこたらなかったにかかわらず、一々書物を並べ直すとなると、思わぬほこりの色を、目の届かない陰に見つけるので、残らずそろえるまでには、なかなか手間取った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)