御台場おだいば)” の例文
やまおきならんでうかこれも無用なる御台場おだいば相俟あひまつて、いかにも過去すぎさつた時代の遺物らしく放棄された悲しいおもむきを示してゐる。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
雲が手の届きそうな低い所にあって、見渡すと、東京中の屋根がごみみたいに、ゴチャゴチャしていて、品川しながわ御台場おだいばが、盆石ぼんせきの様に見えて居ります。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その年の八月には三隻の英艦までが長崎にはいったことの報知しらせも伝わっている。品川沖しながわおきには御台場おだいばが築かれて、多くの人の心に海防の念をよび起こしたとも聞く。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
竿釣にも色〻ありまして、明治の末頃はハタキなんぞという釣もありました。これは舟の上に立っていて、御台場おだいばに打付けるなみの荒れ狂うような処へはりほうって入れて釣るのです。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
膳の上を見ると、ぜにのない癖に二三品御菜おかずをならべている。そのうちにさかなの焼いたのが一ぴきある。これは何と称する肴か知らんが、何でも昨日きのうあたり御台場おだいば近辺でやられたに相違ない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やまおきに並んで泛ぶこれも無用なる御台場おだいば相俟あいまって、いかにも過去った時代の遺物らしく放棄された悲しい趣を示している。
うわさに聞く御台場おだいば、五つの堡塁ほうるいから成るその建造物はすでに工事を終わって、沖合いの方に遠く近く姿をあらわしていた。大森おおもりの海岸まで行って、半蔵はハッとした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
伊皿子台上いさらごだいうえ汐見坂しおみざかも、天然の地形と距離とのよろしきがために品川の御台場おだいば依然として昔の名所絵に見る通り道行く人の鼻先に浮べる有様