弥生町やよいちょう)” の例文
旧字:彌生町
あの池から、一つの狭い谷が北のほうへ延びて、今の動物地質教室の下から弥生町やよいちょうの門のほうへ続いていた事が、土工の際に明らかになったそうである。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
僕はあきらめに近い心を持ち、弥生町やよいちょうの寄宿舎へ帰って来た。窓硝子ガラスの破れた自習室には生憎あいにく誰も居合せなかった。僕は薄暗い電燈のした独逸文法ドイツぶんぽうを復習した。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
北どなり、水戸さまの中屋敷にむいた弥生町やよいちょうがわの通用門から、てんでにどんぶりや土瓶を持った老若男女ろうにゃくなんにょがあふれだし、四列ならびになってずっと根津権現ねづごんげんのほうまで続いている。
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
されば冥土よみじ辿たどるような思いで、弥生町やよいちょうを過ぎて根津までくと、夜更よふけ人立ひとだちはなかったが、交番の中に、蝶吉は、かいなそびらねじられたまま、水を張った手桶ておけにその横顔を押着けられて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弥生町やよいちょうの奥さんがいらしった時に、なんでもそんな話だったぜ。」
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
高等学校の横を通って弥生町やよいちょうの門からはいった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
弥生町やよいちょうでございます。お近いわね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
高等学校の横を廻る時に振返ってみると本郷通りの夜は黄色い光に包まれて、その底に歳暮の世界が動揺している。弥生町やよいちょうへ一歩踏込むと急に真暗で何も見えぬ。
まじょりか皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
竜田は校内のそのを抜けて、弥生町やよいちょうの門を出ようとして空を見たのである。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
バケツ一つだけで弥生町やよいちょう門外の井戸まで汲みに行ってはぶっかけているのであった。これも捨てておけば建物全体が焼けてしまったであろう。十一時頃帰る途中の電車通りは露宿者で一杯であった。
震災日記より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)