幾程いくほど)” の例文
見張りはじめてより幾程いくほども無く余は目科の振舞にと怪しくかつ恐ろしげなる事あるを見てうせろくな人にはあらずと思いたり、其事はほかならず
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
さて其男は幾程いくほども無く病みわずらふことありて死にけりとか。こは近頃の事なりとて、男の名も聞きしかど忘れにけり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
けれど、母親が気をむまでも無く、幾程いくほどもなくお勢は我から自然に様子を変えた。まずそのはじめを云えば、こうで。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
隊が岡山を離れて、まだ幾程いくほどもない時、能呂がふと前方を見ると、隊の先頭を少し離れて、一人の男が道の真中を闊歩してゐる。隊の先導をするとでも云ふやうに見える。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
取結とりむすばせける夫より夫婦なかむつましく暮しけるが幾程いくほどもなく妻は懷妊くわいにんなし嘉傳次はほか家業なりはひもなき事なれば手跡しゆせきの指南なしかたは膏藥かうやくなどねりうりける月日早くも押移おしうつ十月とつき滿みちて頃は寶永二年いぬ三月十五日のこく安産あんざんし玉の如き男子出生しゆつしやうしける嘉傳次夫婦がよろこび大方ならずほどなく七夜しちやにも成りければ名を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)