峻嶮しゅんけん)” の例文
火口壁は四十度以上の急角度で、胸突むなつき八丁よりも峻嶮しゅんけんに、火口底までは直径約一千尺の深さで、頂上内院大火口よりも深いものである。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
さすがに多くの門弟を引き連れて来て峻嶮しゅんけんを平らげ、山道を開き、各国に信徒を募ったり、講中を組織したりして、この山のために心血をささげた普寛、神山
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
五社峠の峻嶮しゅんけんを越えて六里に余る道程であり、それから三の公へは、峡谷の口もとまでが二里、一番奥の、昔自天王がいらしったと云う地点までは、四里以上ある。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼らの祈祷は大胆にも議論の提出であり、彼らの礼拝は質疑である。その峻嶮しゅんけんを試みんとする人にとっては、それは多大の憂苦と責任とのこもった直接的宗教である。
「……それでさいがわざわざあの男の所まで出掛けて行って容子ようすを聞いたんだがね……」と金田君は例のごとく横風おうふうな言葉使である。横風ではあるがごう峻嶮しゅんけんなところがない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
氷原と吹雪、氷河と峻嶮しゅんけん登攀とうはん。奈翁のアルプス越えもかくやと思われるような、荷を吊りあげ、またおのぶサンを引きあげる一本ロープの曲芸。そのうち、落伍者が続出する有様。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
永劫回帰の思想はツアラトストラが挑戦する最後の恐ろしい峻嶮しゅんけんである。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
メガンチオスはエウリピロスのやりの下に死しぬ。英雄の王たるアガメムノンは、轟々ごうごうたるサトニオの大河に洗わるる峻嶮しゅんけんなる都市に生まれたるエラトスを打ち倒しぬ。
しかし物も極度に達しますと偉観には相違ございませんが何となくおそろしくて近づき難いものであります。あの鼻梁びりょうなどは素晴しいには違いございませんが、少々峻嶮しゅんけん過ぎるかと思われます。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
多くの門弟を引きつれて来て峻嶮しゅんけんを平らげ、山道をひらき、各国に信徒を募ったり、講中を組織したりして、この山のために心血をささげた覚明、普寛、一心、一山なぞの行者らの気魄きはくと努力とには
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)