寒中かんちゅう)” の例文
そのために先方からどんな苦情をうけるかと思うと、彼は気が気でないのだと包み隠さずにいって、この寒中かんちゅうひたいにびっしょりとかいた汗を手巾ハンカチぬぐった。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを上ると、狭い短い廊下の真中まんなかに、寒中かんちゅうでも破れた扉の開け放しになった踊子の大部屋。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大地が始終真白まっしろになって居るではなし、少し日あたりのよい風よけのある所では、寒中かんちゅうにも小松菜こまつな青々あおあおして、がけの蔭ではすみれ蒲公英たんぽぽが二月に咲いたりするのを見るのは、珍らしくない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
医科の和田といった日には、柔道の選手で、賄征伐まかないせいばつの大将で、リヴィングストンの崇拝家で、寒中かんちゅう一重物ひとえもので通した男で、——一言いちごんにいえば豪傑ごうけつだったじゃないか? それが君、芸者を知っているんだ。
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)