たい)” の例文
友は蔦蘿つたかづらの底に埋れたる一たいの石を指ざして、キケロの墓を見よといへり。是れ無慙むざんなる刺客せきかくの劍の羅馬第一の辯士の舌をもだせしめし處なりき。
私達の立つてゐる北山公園の一部には、若葉の蔭に楡銭がたいを成して散り重なり、何処からか柳絮が飛ぶのであつた。
これ蛇王の信号で、今まで多くの小山と現われて動かず伏しいた無数の蛇ども、皆その方へ進み行き、小山ついに団結して乾草たいの大きさに積みかさなった。
就中なかんずく読書五十年の如きは、ただに計画として存在するのみではない、その藁本こうほんが既にたいを成している。これは一種のビブリオグラフィイで、保さんの博渉の一面をうかがうに足るものである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
四人は洞穴を検査けんさして外へ出ると、フハンはまたもや狂気のごとく走った、それについて川をくだると、大きなぶなの木の下に、一たいの白骨があった。これこそ洞穴の主人の遺骸いがいであろう。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
(うん。あの女の人は孫娘まごむすめらしい。亭主ていしゅはきっと礦山こうざんへでも出ているのだろう。)ひるの青金あおがね黄銅鉱おうどうこう方解石ほうかいせき柘榴石ざくろいしのまじった粗鉱そこうたいを考えながら富沢は云った。女はまた入って来た。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
車は情なくして走り、一たいの緑を成せるブレンタの側を過ぎ、垂楊の列と美しき別業べつげふとを見、又遠山のまゆずみの如きを望みて、夕暮にパヅアに着きぬ。
当時石田の意は青野原にて決戦と謀しを、神祖不意に此処に出て三方の山に軍陣を列し、関が原へ西軍を包がごとく謀りし故西軍大に敗せりといふ。首塚二たいあり。数里にして不破関の迹なり。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
球ありて此卓上を走り、その留まる處の色は、賭者をして倍價の銀をち得しむ。傍よりうかゞふに、そのすみやかなることは我脈搏と同じく、黄白のたいは忽ち卓に上り又忽ち卓を下る。