執念しつこ)” の例文
私は段々興奮してきて、いよいよ執念しつこく根掘り葉掘り訊きただしました。しかしどうも肝心の私の知りたいことは恐ろしくて訊けませんでした。
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
若い放浪者はドン河に添うて矢張やはり疲労れた足どりで何処までも何処までも歩いて行く。そして其顔には恐怖と憂鬱が執念しつこく巣食っているのであった。
死の復讐 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二度まで空を斬らせられて、なお執念しつこく絡み付くのは、物盗りにかかった、何よりの証拠ともみるべきでしょう。
四囲あたりの人々がどうあろうと、そんな判別もつかぬらしく、ただいたずらにその眼は執念しつこく女の屍体に注がれていた。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
執念しつこいの……じぶんの濡衣どころじゃねえ、はじめっから、角太郎を突き落すつもりでやったことなんだ。角太郎が、ゆくりなく、露月亭へ『谷口検校』を
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
血の河を流して人のどてを突切るからそう思え、おいらは悪人でねえから血を見るのもきれえだし、見せるのもいやなんだが、てめえたちがあんまり執念しつこいから、一番
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
水飴の様に執念しつこくこびり付いて居るのを、こちこちつめの先でたたいたりすると、かやはかすかな憐憫れんびんを覚え乍ら、また、何となく胸がせいせいして小気味のよい様な
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
四阿山を中にして右には槍ヶ岳、左には穂高山がはるかの天際に剣戟を連ね、横手山の右には真白に輝く立山劒ヶ岳の姿が執念しつこく離れまいとする雪雲の間から垣間見られた。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
その表情の動きのなかにも、かすかながら父母の何ものかが漂うているのだった。そういう判りきったことを執念しつこく私の心に対い、恐ろしいほど凝視するような気もちだった。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
『何しや來たす此人このふとア。』と言つて、執念しつこくも自分等の新運命を頓挫させた罪をなぢるのであつたが、晩酌に陶然とした忠太は、間もなく高い鼾をかいて、太平の眠に入つて了つた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
村落をも沒してゐた執念しつこい霧は、妙高の頂に逃げ集つてゐたが、正午を過ぎる頃から、又其頂を下りて、そろ/\山の中腹を包み、山を離れて廣く中空に浮び出で、麓の谿に怪しい影を落し
霧の旅 (旧字旧仮名) / 吉江喬松(著)
勿論その女のことは人に頼んでなかへ入つてもらつて、去年の冬とにかく一段落ついた形になつてゐたが、しかし相手が執念しつこく出れば、彼はいつまでたつても安心する訳には行かないのであつた。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
と自身としての答えを執念しつこくもとめている自分に心附くのであった。
おもかげ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
執念しつこくも亡ぼさずにいる。
雪中富士登山記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
二度まで空を斬らせられて、尚ほ執念しつこく絡み付くのは、物盜りにかゝつた、何よりの證據とも見るべきでせう。
町人風ではあったけれど、ただの町人とは思われない、そういう人数が一二三人、執念しつこく後を追っかけて来る。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あまりに兵馬が執念しつこいために、さすが堪忍無類の覆面ももはやたまり兼ねたか、兵馬の隙を見すまして自分の脇差に手をかけて、スラリと抜打ちを試みようとするらしいから
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
上辷うわすべりのする赭色の岩屑を押し出した岩の狭間をい上って崖端に出ると、偃松の執念しつこからみついた破片岩の急傾斜がいらかの如く波を打って、真黒な岩の大棟をささえている。絶巓ぜってんはすぐ其処そこだ。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
フッと其時気がついて見ると、私の横に先刻からたたずんでいる人がありまして、其人が執念しつこく私の顔を見詰めて居るのでございます。私も其人を見詰めました。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
辛くもかわして、繁代を追いますが、後から迫る道中差が三本、執念しつこく絡んで女を追わせません。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
鼠色の雲は時々むらを生じて、消えかかった提灯のように明るくなったり暗くなったりするが、この美しい山上の高原は彼等の住家ででもあるものか、執念しつこく原を取り巻いて唯だ私達を焦らす許りだ。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
お紋を執念しつこく追廻し、手嚴しく耻しめられたのを根に持つて、惡事の仲間を語らつて、お紋の素姓をあばき立て、到頭荻野家にも居られないやうな事にして了つたのでした。
その上義明を殺したのは、鳰鳥直接の手ではなく、お六という女であった筈だ。では執念しつこく彼ら二人を、主君の仇として怨むには及ばぬ。まして義明は暗愚の将で、我をさえ殺し遠ざけようとした
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お紋を執念しつこく追廻し、手厳しく辱しめられたのを根に持って、悪事の仲間を語らって、お紋の素姓をあばき立て、とうとう荻野家にも居られないような事にしてしまったのでした。
老人は執念しつこく繰り返す。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)