地金じがね)” の例文
ジルノルマン氏の方に対する敬意は、まったく彼のよい地金じがねのゆえであった。彼は上に立つべき人だったから上に立っていたのである。
ところが、ほかのものの地金じがねへ、自分の眼光がじかにつかる様になって以後は、それが急に馬鹿な尽力の様に思われ出した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あら、あたし、つい女の地金じがねを出してしまいましたかしら。自分では、もうそれほどではないと思っていますけれど。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そのひとに安心しているので、かえってお道化など演じる気持も起らず、自分の地金じがねの無口で陰惨なところを隠さず見せて、黙ってお酒を飲みました。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかしそいつが大違いで、腹からなり切れちまえばいいんだが、だから肝心な時に母婦の地金じがねが出て来るんで、なお不自然ないやな気がするんだ
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ほほほほ、なんですよ今ごろ、これが三社前の姐さん、当り矢のお艶の懸値かけねのないところ。地金じがねをごらんなすったら、愛想もこそも尽きましたろうねえ」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これは誰でも考えることで、今度の犯人もその一つをえらんだであろうと察せられるが、そのほかの方法はその小判を鋳潰いつぶして地金じがねに変えてしまうことである。
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
地金じがねすべて、黄金なのはいうまでもない。迦陵頻迦かりょうびんがのすかしぼりである。はちすの花は白金だし翠葉みどりは青金せいきんだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
古金買いの中でも、なべかま薬缶やかんなどの古金を買うものと、金銀、地金じがねを買うものとある。あとの方のがいわば高等下金屋である。これに百観音は買われました。
それがほんとうのものであって、それ以外のものはとかくすると嘘が出て、地金じがねが出てくるのであります。
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「あ、あの仏像ぶつぞうですかい。地金じがね黄金おうごんですか、なんでできていますか。」と、隣村となりむら金持かねもちはきました。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
忌々いまいましい、そう思わるるがいやだによって、大分気をつけているが地金じがねはとかく出たがるものだナ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ほりと云い、地金じがねと云い、見事な物さ。銀の煙管さえ持たぬこちとらには見るも眼の毒……」
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鶴見はその喇叭をかれこれ十年も使っているので、表にかけた黒漆くろうるしげてところまだら地金じがねの真鍮が顔を出している。その器具を耳にあてがってみても、実は不充分である。
「いや、駄目ですよ。地金じがねが悪いんですから、矢張りこのまま大切だいじに使うより外ありません」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「やかましいやい」船長ノルマンは、地金じがねを出して、厳しい口調で竹見をどなりつけた。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これ銅地金じがね濫出らんしゅつを防ぐの政策にして、実に寛政二年(千七百九十年)なりとす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
まず位改くらいあらためといって、金質の検査をし、その後に、さまざまの金質のものを一定の品位にする位戻くらいもどしということをやり、砕金さいきんといって地金じがねを細かに貫目を改め、火を入れて焼金やきがねにし、銀、銅
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
いまでは銅貨どうか補助貨幣ほじよかへいでありまして、本當ほんとう價値かちだけ重分量じゆうぶんりようをもつてをりませんけれども、むかし支那しななどでは、銅貨どうかおも貨幣かへいでありましたから、地金じがねおなじだけの價値かちがあつたのです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
紳士の番頭はその地金じがねを現わした。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「変だな。出物だと申したが、地金じがねが匂う。まだ金いろも生新しいのみか、うちは上手だが、片切かたきりのまずさ」
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その日に限って年増の地金じがねあらわしているように感じたのであるが、こうして見ると、日本のこう云う徳川時代的服装は、大体に女をけさせるのであろうか。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さあ、地金じがねのことは、ぞんじませんが、鑑定かんていしてもらうと、やすくて千りょう値打ねうちがあるとのことです。先刻せんこくも、むらのだんなさまがえて、千りょうゆずってほしいといわれました。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは、煙管の地金じがねを全然変更して、坊主共の欲しがらないようなものにする事である。が、その地金を何にするかと云う問題になると、岩田と上木とで、互に意見を異にした。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「そりゃお宅なんぞへ上って、むやみに地金じがねを出すほどの馬鹿でもないでしょうがね」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お駒のようすに、だんだん伝法でんぽうなところが見えてくる。今に何をいい出して、地金じがねをあらわさないものでもないから、黙って見ていた磯五が、心配をはじめて、いそいで口をはさんだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、お父さんが印を取りに立った後、二人は顔を見合せて地金じがねに戻った。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ですからそれを地金じがねとしてつぶしたのはむりではないとおもはれます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
手にとってもすぐにまたしまってしまう。同じ長崎煙草が、金無垢の煙管でのんだ時ほど、うまくないからである。が、煙管の地金じがねの変った事は独り斉広の上に影響したばかりではない。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)