喰詰くいつ)” の例文
宿屋の親父は五平ごへいと云って、年五十九で、江戸を喰詰くいつめ、甲州あたりへ行って放蕩ばかをやった人間でございます。せがれは此の地で生立おいたった者ゆえ質朴なところがあります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかもそうした堅気かたぎの士族出が、社会の最暗黒面であるさと近くに住居して、場末の下層級の者や、流れ寄った諸国の喰詰くいつめものや、そうでなくてもやみの女の生血いきちから絞りとる
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そこで彼はぐっとしゃくさわり、う見えても憚りながら文字の社会ではちっとは名を知られた男だ、其様な喰詰くいつめ者と同じには見て貰うまい、と腹の中ではおおい啖呵たんかを切ったが、虫を殺して彼はうつむいて居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ちゃんはな、江戸の深川で生れて、腹一杯はらいっぺえ悪い事をして喰詰くいつめっちまい、甲州へ行って、何うやら斯うやら金が出来る様になったが、詰り悪い足が有ったんで、此処こゝへ逃げて来た時に
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は白島村の廣藏ひろぞう親分の厄介で、傳次でんじと申す元は魚屋でございますが、江戸を喰詰くいつめてこんなところへ這入って、山の中を歩き廻り、極りが悪くって成らねえが、金が出来ませんじゃア
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私が道楽をして江戸を喰詰くいつめ前橋へまいってって、棟梁の処から弁当をげて、あなたの処へ仕事に往った時、わっちアあのくらいな土庇どびしはねえと、いまだに眼に附いています、さわらの十二枚八分足はちぶあし