喉声のどごえ)” の例文
テナルディエの女房は指錠をはめられるままに身を任した悪漢どもの方をじろりと見やって、つぶれた喉声のどごえでつぶやいた。
夫人は怒りにかすれた喉声のどごえでそう云うと、いきなり立ち上った。立ち上って、ドアを押すと、よこっ飛びに階段へ出た。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「構わないで——」伊助はほとんど声にならない喉声のどごえで、眉をしかめながらこうささやいた。「年を取ったのですな。足を滑らせまして、……ばかな事です」
柘榴 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一輪の薔薇ばらをボタンの穴にさして、重々しい喉声のどごえ愛嬌あいきょうをふりまきながら、女たちの椅子いすから椅子へと歩き回ってる色男について、次のような言葉をクリストフは耳にした。
隼人は静かに近よっていった。小屋の中から、女の含み笑いが聞え、それがひそめた叫び声になり、男の太い喉声のどごえがなにか云った。隼人は小屋の戸口の脇に立った。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
時々馬鹿げた喉声のどごえが口かられていた。クリストフはびっくりした。初めは父がふざけてるのだと思った。しかしじっと身動きもしないでいるのを見ると、急に恐しくなった。
三島が喉声のどごえで喚いた。彼は新銭座で禿にやられてから、丸太を見ると逆上する癖がついていた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「これが最後だ」と芳村は喉声のどごえできいた、「今夜かぎりおりうに会わないと誓えるか」
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「はい」とちぐさが喉声のどごえで低く答えた、「このあいだ無事に麻疹はしかを済ませました」
おくみは甲斐の背中でかぶりを振り、いいえと喉声のどごえで、辛うじて云った。