のんど)” の例文
嬉しさはことばに尽し難し。水なるかな、水ありて緑あり、水はのんど湿うるほし、緑は眼を潤す。水ありて、人あり、獣あり、村をなす。
蠎蛇をろちの鳥を呑むときは、鳥自ら飛びて其のんどに入るといふ類にやあらん。この獸の赤き目には、怪しき光ありて、我を引き寄せんとする如し。
何者が何の為にコロップの栓の裏にかゝる切創を附けたるにや、其創はもっとも鋭き刃物にて刺したる者にて老人ののんどを刺せし兇刃きょうじんかゝ業物わざものなりしならん
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
かけ其日は入牢とぞ相なりける其後松坂町郡代の牢屋敷らうやしきに於て無殘むざん成かな富右衞門は日々ひゞ手強てづよき拷問に掛り今は五たい悉々こと/″\よわはて物ものんどくだすこと能はず一命既に朝夕てうせきせまるに付富右衞門倩々つく/″\來方こしかた
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
喫煙室には煙草の煙の間に、談話湧き、人顔おぼろに見え、テーブルの上には錦手にしきての皿にまき羊羹ようかんの様なるものを積みたり。先刻より空腹に、好物のまき羊羹を見てのんどしきりに鳴る。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
ポヽロの廣こうぢに出でゝ、記念塔のめぐりなる石獅の口より吐ける水をむすびて、我涸れたるのんどうるほしゝが、その味は人となりて後フアレルナ、チプリイの酒なんどを飮みたるにも増して旨かりき。