吶々とつとつ)” の例文
大塔ノ宮の旗上げ、その吉野城と、金剛山との結びつき、四国九州にわたる宮方の危険なきざし、それらを、茂時は事務口調で、吶々とつとつと申しべた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吶々とつとつとして、しかも沈着に、純真に、縷々るるこの意味の数千言を語ったのが、轟々ごうごうたる汽車のうちに、あたかも雷鳴をしのぐ、深刻なる独白のごとく私たちの耳に響いた。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
津上氏は帝展に数回特選され、数多の名士の銅像を作った人であるが、席上梅津只圓翁の人格を聞き、次いでその写真数葉を見るに及んで非常に感激し、吶々とつとつたる口調で
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「貴公が先に帰って間もなくのことだ」甚十郎は吶々とつとつと話した
城中の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
正成は吶々とつとつと言いながら、たずさえて来た大ぶりな竹籠の献上物を、宮の坐っている広縁までささげてから、また階を下りて、庭面に低くぬかずいた。
なんの鋭さもない抗弁だが、高徳の吶々とつとつという言には、五郎と違うねばりがあった。ただのぼくとつかんとばかり彼を見ていた五郎は急に高徳を見直していた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吶々とつとつということばには真実があって、むしろ、妹思いな兄と、兄思いな妹とが、髣髴ほうふつとして、眼を閉じて聞いている人々のまぶたに迫ってくるほどなのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吶々とつとつと述べる者もなくはないが、いっこうに明確でなく「——まずはすぐの御船出は、途中御難儀かとぞんじられまする」といったようなたぐいの意見ばかりだった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
口重くちおもげで、もの言いぶりも吶々とつとつと、風貌からして、ぼくとつな武人である。年齢は四十がらみ。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吶々とつとつとした物の言い振りだ。いかにも、実直者らしい。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)