剥離はくり)” の例文
それが終って陶の身体を棺に納めようとするとき、一塊の肉が脛から剥離はくりしてポロリと戸板の上に落ちた。俺は袖で顔を蔽って泣いた。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それは欧洲おうしゅう文芸復興期の人性主義ヒューマニズムが自然性からだんだん剥離はくりして人間わざだけが昇華しょうかげ、哀れな人工だけの絢爛けんらんが造花のように咲き乱れた十七世紀の時代様式らしい。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
渾沌こんとんを防ぎとどむべきなんらの防壁もなかった。あらゆる武器は、彼の四方をおごそかにとり巻いていた城壁は、神も芸術も傲慢ごうまんも道徳も、皆次々に崩壊してゆき、彼から剥離はくりしていった。
根元のところから始った亀裂きれつが、布を裂くような音を立てながら、眼にもとまらぬ早さで電光いなずま形に上のほうへ走りあがってゆき、大巾おおはばな岩側が自重じじゅうで岩膚から剥離はくりしはじめた。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そのために天井の壁土が剥離はくりしてさかんに顔のうえに落ちてくる。
黒い手帳 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)