八丁堀はっちょうぼり)” の例文
老人に指導をうけた八丁堀はっちょうぼりの若手や、難事件に墜ちて手にかかった人々などが、相談をまとめてから、この話を、鶉坂へ持ちこんだ。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なかよく連れだってぶらりぶらり八丁堀はっちょうぼりのお組屋敷へ帰りついたのが、かれこれもう夜も二更にこうに近い五ツ下がり刻限でした。
少し古い土地の人なら、八丁堀はっちょうぼり岡吉おかよしと云う色物専門の寄席があったのを記憶しているはずである。その寄席の経営者はよねと云う仕事師であった。
寄席の没落 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
神田川かんだがわ八丁堀はっちょうぼりなぞいう川筋、また隅田川すみだがわ沿岸の如きは夕陽せきようの美をたざるも、それぞれ他の趣味によって、それ相応の特徴を附する事が出来る。
父君は樋口則義ひぐちのりよし、母君はたきといって、安政年間に志をたてて共に江戸に出、母は稲葉家いなばけに仕え、父は旗本菊池家に奉公し、後に八丁堀はっちょうぼり衆(与力同心)に加わった。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
僕は東京へ来て、八丁堀はっちょうぼり偕楽園かいらくえんや、神田の会芳楼などで、先輩から、所謂支那料理を饗応きょうおうされた事がありますが、僕は生れてはじめて、あんなおいしいごちそうを食べました。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
八丁堀はっちょうぼりの旦那方をはじめ、江戸のおかぴきの大部分が、付け届けと役得で、要領よく贅沢ぜいたくに暮している中に、平次と八五郎は江戸中の悪者をふるえ上がらせながらも、相変らず潔癖で呑気のんき
祖父に当る富五郎は八丁堀はっちょうぼり鰻屋うなぎやをしていたこともありました。
「ほほほ、音を立てろ——だと! 八丁堀はっちょうぼりもどきだね」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ご高家のお殿さまが、八丁堀はっちょうぼりからこっそり帰ったと人目にかかりましては世間へのはばかりもござりましょうゆえ、ご遠慮なくお召しくださりませ。
それより一年ほど星巌は八丁堀はっちょうぼり僦居しゅうきょしていたが火災にい、遂に地を神田お玉ヶ池に相して新に家を築き、天保五年十一月某日に移り住したのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
八丁堀はっちょうぼりを出たのが五ツ下がり、途中駕籠かごを拾って、目ざした水金にみこしを降ろしたのがちょうど四ツでした。
「こうこう仙果さん。大きな声をしなさんな。その辺に八丁堀はっちょうぼりの手先が徘徊うろついていねえとも限らねえ……。」
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お千代は八丁堀はっちょうぼりの妾宅に、重吉はわずか二、三ちょうはなれた新富町しんとみちょうの貸間に新年を迎え、間もなく二月ぢかくになったが、尋ねる人の行衛ゆくえは一向にわからなかった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「この巻き羽織見たら八丁堀はっちょうぼり衆ってことがわかるはずだ。嵐三左衛門の寝泊まりしていた座敷へ案内せい」
右門捕物帖:23 幽霊水 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
とちのようなのをぽろぽろとやっていましたが、右門はべつにほめられるほどがものでもないといったような面持ちで、さっさと八丁堀はっちょうぼりのほうへ引き揚げていきました。
滑るがように心持よく三十間堀さんじっけんぼりの堀割をつたわって、夕風の空高く竹問屋の青竹の聳立そばだっている竹河岸たけがしを左手に眺め真直まっすぐ八丁堀はっちょうぼり川筋かわすじをば永代えいたいさして進んで行った。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
以前ぶらぶらしていた時分行きれた八丁堀はっちょうぼり講釈場こうしゃくばの事を思付おもいついて、其処そこで時間をつぶしたのち地蔵橋じぞうばし天麩羅屋てんぷらやで一杯やり、新富町の裏河岸うらがしづたいに帰って来ると
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「さようか、なによりじゃ。では、黙山坊を同道いたして、明日早く八丁堀はっちょうぼりへたずねてまいれよ」
わたくしは急いで八丁堀はっちょうぼりの母の家へ出かけて行きました。母のことは大体友達のつゆ子から聞いていましたから、午後がよかろうと思って、三時頃にたずねたのです。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
江戸八丁堀はっちょうぼりの同心が不意になわ張りを離れて、方面違いも方面違いの武州くんだりまでも飛び移るんですから、なかにはさだめし不審に思われるおかたもございましょうが
「いいや。どういうおつもりか、お組頭、ちとふにおちぬことをされたわい。密々の早馬、すぐに八丁堀はっちょうぼりへ飛ばしてのう、だれか知らぬが火急に呼び招いた様子でござるぞ」
むかし見当橋のかかっていた川○八丁堀はっちょうぼり地蔵橋かかりし川、その他。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「なんだとッ。やじうまたあ何をぬかしゃがるんでえ! 八丁堀はっちょうぼりの伝六親方を知らねえかッ」
買いとってだいじそうに懐中すると、見せ物小屋のほうへ行くかと思うとそうではないので、待たしておいた駕籠をうたせながら、ずっと帰ってきたところは八丁堀はっちょうぼりの組屋敷です。
南町奉行ぶぎょうお配下の与力同心たちがかたまっている八丁堀はっちょうぼりのお組屋敷でも、お多聞に漏れずそのお花見があるというので、もっともお花見とはいってももともとが警察事務に携わっている連中ですから