先刻さきがた)” の例文
「今日は鰹が大分獲れる相な、先刻さきがたたんとあつたのでお父さん等、町へ船で持つて行つてござつたさうや。」とお桐が言つた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
蝦蟇は先刻さきがたまで、物蔭で大学教授のやうに哲学を考へてゐたが、滅法腹が空いたので、のつそり明るみへ這ひ出して来たのだ。
この多勢の宴会に一々お附申すのではなけれど、出会ったまゝ先刻さきがた顔を覚えた客だと思えばそこが商売で、あなたこれをと白茶地に紋形のある手巾を出したのを
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
先刻さきがた郵便が来たとき、何処から来たのかと郵便屋に尋ねたのじゃ、そしたら、八重さ所からと、弟様とこから來たのやと言うさかい、そんなら別に用事はないのや、はゝん
恭三の父 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
欄干てすりに片手載せて、あなたちょいと御覧なさいと小歌が云うのを、貞之進は立ちもせず振向けば、水にも雲が映って居るというだけのことで、先刻さきがた小歌が出て居た中村楼なかむらやのき
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
先刻さきがたから文麟の土地ところ自慢に虫の居所を悪くしてゐた是真は、それを聞くと
記者は先刻さきがた友達に出会つた時、コツペエの詩集を読みさしのまゝ、ポケツトに入れた事に気がいた。そしてその頃コツペエが風邪か何かでふせつてゐるのを思ひ出すと、覚えず小躍りして叫んだ。