偸盗ちゅうとう)” の例文
近頃の新聞の三面、連日に、偸盗ちゅうとう邪淫じゃいん、殺傷の記事を読む方々に、こんな事は、話どころか、夢だとも思われまい。時世は移った。……
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分達の常識で正鵠せいこくな判断は致し難いが、土匪は、馬賊に倍する残虐と、偸盗ちゅうとう、殺戮をほしいままにすることで知られて居る。
これから半刻はんときばかり以前の事である。藤判官とうほうがんの屋敷を、表から襲った偸盗ちゅうとうの一群は、中門の右左、車宿りの内外うちそとから、思いもかけず射出した矢に、まず肝を破られた。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それをなんぞや! 一老婆が偸盗ちゅうとうのごとく持ち出したものを、なんとておめおめと受納できようか。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
話は昔の中国の偸盗ちゅうとう説話につながるような狡智をきわめた手段を用いたもので、それは、黒風吹きすさみ、人々も家の戸を閉じて居たような日に行われた面白い話であった。
それゆえに彼らの生活には私たちが感じ得る限りでは偸盗ちゅうとう姦淫かんいんがなくとも、彼らの魂の深さと鋭さとはそこに偸盗や姦淫を感じ出さずにはいられなかったのではなかろうか。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
ただし武将が用いる時には、変幻出没たる兵法となり、悪人姦党が利用する時には恐るべき偸盗ちゅうとうの道具となる。……著者は誰だか解らない。ただし支那の太古人らしく、神農時代の人物らしい。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なんじ竹藪の奥に生れて、その親も知らず、昼は雪隠せっちんにひそみて伏兵となり、夜は臥床がしょうをくぐりて刺客となる、とつ汝の一身は総てこれ罪なり、人の血を吸ふは殺生罪なり、蚊帳の穴をくぐるは偸盗ちゅうとう罪なり
藤判官とうほうがんの屋敷から、引き揚げてきた偸盗ちゅうとうの一群は、そのやみの中にかすかな松明たいまつの火をめぐりながら、三々五々、あるいは立ちあるいは伏し、あるいは丸柱の根がたにうずくまって、さっきから
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)