侵蝕しんしょく)” の例文
しかしそういう力の中心には、侵蝕しんしょく的な蛆虫うじむしが住んでいた。クリストフはときどき絶望の発作にかかった。それは急激な疼痛とうつうだった。
川幅がひろがって大きく曲る左岸の、えぐったように岸へ侵蝕しんしょくしたところによどみがあり、そのみぎわに沿って葦は生えていた。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
子供こどもちいさな肉体にくたい可憐かれんたましいは、病菌びょうきんが、内部ないぶから侵蝕しんしょくするのと、これを薬品やくひん抗争こうそうする、外部がいぶからの刺激しげきとで、ほとんどえきれなかったのであります。
雲と子守歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あらゆるものが、幾星霜いくせいそうのおもむろな侵蝕しんしょくのあとをとどめている。だが、そのほろびのなかにこそ、何か哀愁をそそり、また心を楽しくさせるものがあるのだ。
「ありゃ成し崩しにおれ侵蝕しんしょくする気なんだね。始め一度に攻め落そうとして断られたもんだから、今度は遠巻にしてじりじり寄ってようってんだ。実に厭な奴だ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが、新しいものが興ることはそれだけずつ、ふるいものの勢力が侵蝕しんしょくされることだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ナポレオンの腹の上で、東洋の墨はますますその版図を拡張した。あたかもそれは、ナポレオンの軍馬が破竹のごとくオーストリアの領土を侵蝕しんしょくして行く地図の姿に相似していた。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
目に見えぬ侵蝕しんしょくの力が、とても防ぎきれないように考えられた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼のあばたは単に彼の顔を侵蝕しんしょくせるのみならず、とくのむかしに脳天まで食い込んでいるのだそうだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
社寺の荘園しょうえんなども、年々、侵蝕しんしょくされてゆくばかり……。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)