代地だいち)” の例文
それが流行はやりとなって、佐竹ッ原でも、代地だいちでも、本願寺裏でも、食えない撃剣家が小屋掛けをして、試合の呼び出しに落語家を使ったり
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吾妻橋あづまばしから川下ならば、駒形こまかた、並木、蔵前くらまえ代地だいち柳橋やなぎばし、あるいは多田の薬師前、うめ堀、横網の川岸——どこでもよい。
大川の水 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ナニ、どっちでもかまわねえんだ、あいつらが両国の方へ行ったから、同じ方へ行くのもしゃくだ、代地だいちの方へ行きましょうよ
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
てめえなんかに、このあんちゃんの心意気がわかってたまるもんけエ。代地だいちつらよごしだ。たたんじめエ!
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
貧乏鬮びんぼうくじ引当ひきあてた者は、祖先伝来の家屋敷や畑をすてゝ、代地だいちと云えば近くて十丁以内にはなく、他郷に出るか、地所が不足では農をよして他に転業しなければならぬ者もあろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
其の前に一目逢いたいから、おたなを首尾して廿五日の昼過に、知らない船宿から船に乗り、代地だいち川長かわちょうさんの先の桐屋河岸きりやがしへ来て待っていてくれろという手紙をしたゝめて出しましたから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
土曜といわず日曜といわず学校の帰り掛けに書物の包を抱えたまま舟へ飛乗ってしまうのでわれわれは蔵前くらまえ水門すいもん、本所の百本杭ひゃっぽんぐい代地だいちの料理屋の桟橋さんばし橋場はしばの別荘の石垣、あるいはまた小松島こまつしま
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
紅白だんだらの幔幕に美々しく飾った大伝馬おおてんまへ、代地だいち幇間ほうかん藝者を乗せて、船の中央には其の当時兜町で成り金の名を響かせた榊原と云う旦那が、五六人の末社まっしゃを従え、船中の男女を見廻しながら
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
酒を呼ぶ離庵はなれの声が手にとるよう……堀沿ほりぞいの代地だいちを流す按摩の笛が、風に乗って聞こえてくる。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
髪結かみゆいやら、河岸かしの者に、噂を探らせてみると、あきれた淫婦あまだ、沢村田之助に入れあげて、猿若町さるわかちょうがハネると、代地だいち八重桐やえぎりへ引き入れて、いい気になっているという話だが
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柳橋やなぎばしのが三人、代地だいちの待合の女将おかみが一人来ていたが、皆四十を越した人たちばかりで、それに小川の旦那だんなや中洲の大将などの御新造ごしんぞや御隠居が六人ばかり、男客は、宇治紫暁うじしぎょうと云う
老年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
僕のうちへ来る人々の中に「お市さん」という人があった。これは代地だいちかどこかにいた柳派の「りん」のおかみさんだった。僕はこの「お市さん」にいろいろの画本えほん玩具おもちゃなどをもらった。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
塗師町ぬしちょう代地だいちの前は、松平まつだいら越中守様えっちゅうのかみさまのお上屋敷で。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)