不覊ふき)” の例文
天の道理に基づきて不覊ふき自由なるものなれば、もしこの一国の自由を妨げんとする者あらば世界万国を敵とするも恐るるに足らず
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
狷介けんかい不覊ふきなところがある。酒を飲めば、大気豪放、世の英雄をも痴児ちじのごとくに云い、一代の風雲児をも、野心家の曲者しれもののごとくそしる。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
折からあたかも官報局長は更任して、卓落不覊ふきなる処士高橋自恃庵は去って、晨亭しんてい門下の叔孫通しゅくそんつうたる奥田義人おくだよしんどが代ってその椅子に坐した。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
海! 海外! 自由! 不覊ふき! ……そういうものを、慕う感情が、京一郎の心へ起こって来た。不意にお蝶はうたい出した。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人の霊魂は不覊ふき独立どくりつなもの、肉体一世の結合は彼もしくば彼女の永久の存在を拘束することは出来ないのですから、先生の生前、先生は先生の道
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いにしへより卓犖たくらく不覊ふきの士、往々にして文章を事とするを喜ばず、文字の賊とならんより心中の文章に甘んじたればならむ。
山庵雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
オットーはクリストフの独立不覊ふきを以前ほど面白く思わなかった。クリストフは散歩中厄介な道連れだった。彼は少しも世間体せけんていをはばからなかった。
しかもその廃せられた所以ゆえんを書して放縦不覊ふきにして人にれられず、ついに多病を以て廃せらるといってあったらしい。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
三千年独立不覊ふきの国、一旦降りて人の臣属弟子と為る、に大統領、貴使臣の、人のために謀慮するの意ならんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
千古の文人と雖も文学の趣味唯貴族の間にのみ行はれし封建の社会に在つてはからふじて不覊ふき独立の生計を為すを得しのみ。当時文人の運命真に悲しむべし。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
独立不覊ふきの科学者或は探究家、妥協せざる社会改良家——これ等の人々は老衰のため学識と創造力とを全く失つてしまつた人々によつて日々壁の一隅に押付けられてゐる。
少数と多数 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
透谷は不覊ふきの生をもとめて却て拘束を免るるに由なかつた悲運の詩人である。その魂はすべての新しきものをあえぎ慕ひて、獨創の天地を見出さむとしたが力足らずして敗れた。
新しき声 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
不覊ふきの夢を抱かれた帝は、宗教を稍々ややもすれば経済の側から限定し、一族栄華の手段とするごとき臣とは、根本において相いれず、美と信仰に殉ぜられんとしたのであろうか。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
重荷の半ばをおろした心もちが、怪物左膳をいっそう不覊ふきにみせていた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
以上を要約するに、現実に立脚した、奔放不覊ふきなる、美的空想を盛り、若しくは、不可思議な郷土的な物語は、これを新興童話の名目の下に、今後必ずや発達しなければならぬ機運に置かれています。
新童話論 (新字新仮名) / 小川未明(著)
有することなければ、国家は、不覊ふき独立すべきことなし。
不覊ふき独立の語は近来世間の話にも聞くところなれども、世の中の話にはずいぶん間違いもあるものゆえ、銘々にてよくその趣意をわきまえざるべからず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
換言すれば想世界より実世界のとりことなり、想世界の不覊ふきを失ふて実世界の束縛となる、風流家の語を以て之を一言すれば婚姻は人を俗化し了する者なり。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
たちまち激情を発しるだけでなく——それを実行せずにかないといったような不覊ふき奔放な性格の持ち主を、佐々介三郎は、すくなからず危険視している。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
首尾よく合格して軍人となっても狷介けんかい不覊ふきの性質がわずらいをなして到底長く軍閥に寄食していられなかったろう。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
彼の経綸けいりんは、彼の不覊ふきなる傲骨ごうこつと共に、寂寥せきりょうたる蕭寺しょうじの中に葬られたり。滔々とうとうたる天下は、温かなる泰平の新夢に沈睡して、呼べどもむべしと見えざりき。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
いかにも多くの貴い自尊心、しかも実生活においては、長上にたいするほとんど奴隷的な賞賛。独立不覊ふきを欲するいかにも高い願望、しかも事実においては、絶対の従順。
そも元禄文学の軽佻けいてうなるは其章句の不覊ふき放逸なるが故のみならずして、其想膸の軽佻なるが故なり。
不覊ふき独立の大義を求むると言い、自主自由の権義を恢復すると言うにあらずや。すでに自由独立と言うときは、その字義の中におのずからまた義務の考えなかるべからず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ただ吾が国は三千年来、いまかつて人のために屈を受けず、宇内うだいに称して、独立不覊ふきの国と為す。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
高橋健三は官報局の局長室に坐している時でも従五位勲何等の局長閣下でなくて一個の処士自恃庵しじあん主人であった。浜田は簡樸質素の学究、古川は卓落不覊ふきの逸民、陸は狷介気を吐く野客であった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)