不確ふたしか)” の例文
可成かなりの知識を持っていたものですから、癲癇による死というものが、如何に不確ふたしかで、生埋めの危険を伴うものだかを、よく心得ていたのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そういう理由は大抵向うが有力だと感じてくれるからね。一体もううから僕は不確ふたしかな診断に悩まされて、我慢がし切れなくなっていたからね。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
最もいきな者は全部の富をほうり出してしまって、虚実は不確ふたしかだが龐居士の如くその日暮らしの笊籮ざる造りなんぞになってしまうのである。いい。実にいい。
貧富幸不幸 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たびたび見聞みききした麻酔死の場合なども予想しました。その際、私の眼が常のごとく鋭敏でなく、手先が不確ふたしかであったのも、実に已むを得ないことなのです。
麻酔剤 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
こういう音響や運動の記憶が、その順序の不確ふたしかな割に、その一々の部分がはっきりとして残っているのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
明日が過ぎたら心からお前をわらつてやらうが、それまでははゞかりませう。私の獲物は不確ふたしかなのだから。
かようにして鼻の表現は、人間に記憶力なるものが存在する限り法律上の罪悪をも映し出すので、こうなると現代の証拠裁判なぞいうものは甚だ不確ふたしかなものとなります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
元来この大菩薩連嶺ほど、山名が不確ふたしかで、議論の余地の多い所は他に少ないであろう。
初旅の大菩薩連嶺 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
島田の事をその時どれほど詳しく彼女に話したか、それが彼には不確ふたしかであった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
して見ますれば、第二の疑問は、第一の疑問と同じく、妻がそれを意志したかどうかと云う事になってしまう訳でございましょう。所で、意志の有無うむと申す事は、存外不確ふたしかなものでございますまいか。
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし、何事も不確ふたしかな世の中だ。哲學また哲學
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
夢でなきかと疑うばかり「だがしかし中川君ばかり承諾されても御本人のお登和嬢が何と言われたろう。最初の風向かざむきでは少々心細かったが御本人も承諾されたろうか」中川「ウム、妹も別段に異存はない様子だ」大原「別段に異存はない様子だなんぞは少々不確ふたしかだね。御本人が進んで僕の処へ来たいと言う位でなくっては ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
女房のそうした言葉とその涙に動かされて、男は我れにもあらず一寸躊躇ためらっていたが、やがて少し不確ふたしかな声で
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
実はこの二三週間というものは、どうも己の病気の事が不確ふたしかなので、己は気になって溜まらなかったのだ。それが今は大ぶ好くなった。兎に角実際の事が分かったのだからなあ。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
現在の位置が不確ふたしかなので、地図通りに直ぐ左とも決められない。金作と二人で横にのり出した樺の木に攀じ上って下を覗いて見た。雲の海は汐の引くように下の瀬戸を音もなく西へ流れている許りだ。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)