下手げて)” の例文
ここで一寸述べておきたいが、「下手げて」とか「下手物げてもの」とかいう俗語は、実に是等の婆さん達の口から始めて聞いた言葉なのである。
京都の朝市 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
下手げてもの」と称せられる、嘗ては誰の家にでも転がつてゐた雑用器物の美的価値は、われわれの祖先が、如何に無意識に美しきものを愛し
しかし、土佐の叩きは、都会の美味い料理に通じない土地っ子が、やたらに名物として宣伝したので、私の目にはグロであり、下手げてものである。
いなせな縞の初鰹 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
その他うっとうしいズボンといえばモダンボーイの事であり、うっとうしい頭といえば下手げてで大げさな耳隠しともなる。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
といった類のすこぶる下手げてぐち調の狂歌にすぎない。おそらく後世もよほど後になっての偽作であろう。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千日前常盤座ときわざ横「寿司すし捨」の鉄火巻とたいの皮の酢味噌すみそ、その向い「だるまや」のかやくめしと粕じるなどで、いずれも銭のかからぬいわば下手げてもの料理ばかりであった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
数寄屋河岸すきやがしに事務所をもち、かつて骨董癖こっとうへきのある英人弁護士の事務所に働いたこともあるので、自分でも下手げてものの骨董品や、異国趣味の室内装飾品などが好きであったが
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
俗語でかかるものを「下手げて」な品と呼ぶことがあります。ここに「下」とは「並」の意。「手」は「たち」とか「類」とかのいい
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「さあ、よく知らないけど、うちのパパなんか、わりに重宝がつててよ。西洋下手げてものを掘り出すのがうまいんですつて」
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
学校で一体私は何事を教わったかを忘却したが、この下手げてなる教材の多くを私は忘れ得ないのだ。それが一生涯、私の血の中を走っているような気がする。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
下手へたなうなぎよりか、よっぽど美味い。しかし、壮年そうねんのよろこぶ下手げて美食であることはいうまでもない。
鮪を食う話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
更に考えるならば、そのような下手げてものに魂の安息所を求めなければならぬところに現代のインテリの悲しさがあり且つ大阪のそこはかとなき愉しさがあるといえばいえるであろう。
大阪発見 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
私は最初用いた「下手げてもの」という字にまつわる誤解を一掃するために、その俗語を止めて、「民藝」という字を用い始めた。
改めて民藝について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
私の心に当時沁み込んだいろいろの教育資料は、ことごとくこの下手げてものばかりだったといって差支さしつかえない。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
場所は何処でもいゝ、例の下手げてもの趣味の舶来模造品です。これだけを取りたてゝ悪く云ふには当りませんが、生憎、私の云はうとすることが、こゝに語られてゐます。
その市場の婆さんたちに「檀那だんなたちは『下手げてもの』が好きだねえ」等といわれて、初めて「下手もの」という俗語を教わり、その語感が面白く
それは貧しい「下手げて」と蔑まれる品物に過ぎない。奢る風情もなく、華やかな化粧もない。作る者も何を作るか、どうして出来るか、詳しくは知らないのだ。
雑器の美 (新字旧仮名) / 柳宗悦(著)
見られよ、あの苦心になる絢爛けんらん柿右衛門かきえもん赤絵あかえに対し、みん代の下手げてな五彩は圧倒的捷利しょうりを示すではないか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あの光悦こうえつが捕えたいと腐心したのも、南方朝鮮の下手げてな茶碗に潜む美でした。あの木米もくべいが、鋭くねらった煎茶茶碗の美も、明清の下手げてな蒔絵に宿る風格でした。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
かえって下手げてさげすまれるそれらのものに、何故美が最もゆたかに宿るか、またその美が何を私たちに語っているか、それらの事に対して私たちの理解は皆一致する。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
茶器への讃美は働く器への讃美である。それはもともと雑器であったではないか。貧しき器、あの「下手げて」とさげすまれる器は、不思議にも美しい器たる運命を受ける。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
だがどうして彼の作が美しいか。実に明清みんしん下手げてな赤絵が彼の美の標的でした。そうして彼の驚くべき才能がよくその真髄を捕え得たからと云わねばならないのです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
今日数寄すきをこらし千金を投じて造る茶室の如きは、茶道の真意に悖ると云わねばならぬ。なぜなら茶祖が示した茶の美は「下手げて」であり、清貧の美だからである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
私は同じようなことを、今ながめている一枚の皿についてもいうことが出来る。それは貧しい「下手げて」とさげすまれる品物に過ぎない。おご風情ふぜいもなく、華やかな化粧もない。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
誤解に導きやすいのは「下手げて」という俗語である。だがこれはなんら粗悪な下等なものとの義ではなく、「民衆の手で民衆のために無心にたくさん作られた日常用の雑具」
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
何の因縁によるのか、ここでも上手じょうて白物しろもん下手げて黒物くろもんとが対峙たいじする。対峙するというより、むしろ白物のみが存在するという方がいいかもしれぬ。黒物の方は振り向く者がない。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それに絵がやや荒れて昔ほどの落ちつきを欠くのは時代のせいで致し方もない。しかし下手げてな絵をうまく描く窯は少くなったのであるから、呉州にでも改めて描けば必ず見直せる品が出来よう。
現在の日本民窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「茶」の美は「下手げて」の美である。貧の美である。
雑器の美 (新字旧仮名) / 柳宗悦(著)
これも下手げてだけど立派なものだね。
台湾の民芸について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)