一件ひとつ)” の例文
僕などは一件ひとつ大きな大きな楽があるので、世の中が愉快で愉快でたまらんの。一日がつて行くのが惜くて惜くてね。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「知らぬ疇昔むかしは是非もなけれど、かくわが親に仇敵あること、承はりて知る上は、もだして過すは本意ならず、それにつき、ここ一件ひとつの願ひあり、聞入れてたびてんや」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
自分は又神経質に過るから、思過おもひすごしを為るところも大きにあるのだ。それにあの人からも不断言はれる、けれども自分が思過おもひすごしであるか、あの人がじようが薄いのかは一件ひとつの疑問だ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
なほ一件ひとつ最も彼の意を強うせし事あり。そは彼が十七のとしに起りし事なり。当時彼は明治音楽院に通ひたりしに、ヴァイオリンのプロフェッサアなる独逸ドイツ人は彼の愛らしきたもと艶書えんしよを投入れぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)