小金井鴨下村こがねいかもしたむらの庄屋の伜で、百姓をきらって家督を弟にゆずり、今ではちょっと知られた御用聞になったが、江戸からわずか七里ばかりの自分の郷里へも、この六七年、足をむけたことがない。
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)