夏秋表かしゅうひょう
その一 私はふたつのさびしい虫のいのちと交感を持った。 信濃路に夏の訪れのあわただしい日、私は先生の山荘の庭に先生とならんで季節の会話のひまにその虫の声を聞いたのである。春蝉と言った。七月なかば、五日か七日をかぎって、林のなかに啼いて、あと …