黒髪かみ)” の例文
もう寝返りも出来ないで、壁の方に片寝でいたお母さんがね、麻の顱巻はちまきかかった黒髪かみがこぼれて横顔で振向いた。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
武男は涙をふりはらいつつ、浪子の黒髪かみをかいなで「ああもうこんな話はよそうじゃないか。早く養生して、よくなッて、ねエ浪さん、二人で長生きして、金婚式をしようじゃないか」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
人程見かけにらない者はありません。これから気をけてると、黒髪かみも人知れず染め、鏡を朝晩にながめ、御召物のしま華美はでなのをり、忌言葉いみことばは聞いたばかりでいやな御顔をなさいました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
扱帯しごき蹴出けだしも、だらだらと血だらけのおんなの姿が、蚊帳の目が裂けて出る、と行燈あんどう真赤まっかになって、蒼い細い顔が、黒髪かみかぶりながら黒雲の中へ、ばったり倒れた。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)