鬼界きかい)” の例文
引き結んだ唇は朱の刺青をしたかと思われるほど赤く生々しい。これはもう人間の面相ではない、鬼界きかいから覗き出している畜類の顔。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「こりゃああぶないぜ、吉植君、これから上陸する時には、よほど気をつけないと、それこそ鬼界きかいしま俊寛しゅんかんものだよ。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「そう云ううわさを立てたものは、お前と同じ都人じゃ。鬼界きかいしまの土人と云えば、鬼のように思う都人じゃ。して見ればこれも当てにはならぬ。」
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いちばんの重罪は、文観僧正で、これは、平家のむかし俊寛しゅんかんがやられた鬼界きかいヶ島しま——つまり硫黄島いおうとう流しときまった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西は鎮西外ヶ浜、東は鳴戸鬼界きかいヶ島、北は北海津軽ヶ沖と津々浦々にいたるまで、竿をかついで釣りに歩いた。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
有王 若君は夜も昼も父母をおしたいなされ、「母上はいずくにゆかれた! 鬼界きかいが島とやらへ連れてゆけ。」
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
日が暮れてあたりが薄暗くなるといよいよ朔風さくふうが強く吹きつけ、眼をあいていられないくらいの猛吹雪になっても、金内は、鬼界きかいしま流人俊寛るにんしゅんかんみたいに浪打際なみうちぎわを足ずりしてうろつき廻り
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もし、それが都であったならば、秋がけて、変りやすい晩秋の空に、北山時雨しぐれが、折々襲ってくる時であるが、薩摩潟さつまがたの沖遥かな鬼界きかいしまでは、まだ秋の初めででもあるように暖かだった。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「あ、そうですか、つまり、平康頼たいらのやすより鬼界きかいしまでやった卒塔婆流そとばながしを、新式に行ったものですね。そうだとすると、相当に面白い浦島になるかも知れません、封を解いて見せていただきたいものです」
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
(間。顔色が悪くなる)ついにわしは父が殺されたといううわさを聞きました。しかしその真否しんぴを確かめることができないうちに、この鬼界きかいが島に移されてしまった。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
鬼界きかいしまに流された俊寛は如何いかに生活し、又如何に死を迎へたか?——これが両氏の問題である。この問題は殊に菊池氏の場合、かう云ふ形式にも換へられるであらう。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
蝦夷えぞの果てか、鬼界きかいしまへでも追いやられるのが落ちだ」
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
みやこにいる時鬼界きかいが島のさびしいことは聞いていたが、これほどだろうとは思わなかった。ほんとうにおにでも住むような島だ。この島で一日と暮らせようとは思えない。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
上使じやうしを斬りたるとがによつて、改めて今鬼界きかいしま流人るにんとなれば、かみ慈悲の筋も立ち、上使の落度おちどいささかなし。」この英雄的な俊寛は、成経康頼等の乗船をすすめながら
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ではちょうど夜長を幸い、わたしがはるばる鬼界きかいしまへ、俊寛様を御尋ね申した、その時の事を御話しましょう。しかしわたしは琵琶法師のように、上手にはとても話されません。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)