雨滴あまだ)” の例文
雨滴あまだれの音はまだしている。時々ザッと降って行く気勢けはいも聞き取られる。城址しろあとの沼のあたりで、むぐりの鳴く声が寂しく聞こえた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
お庄は自分の部屋の縁側から、ばしばし雨滴あまだれのおちる廂際ひさしぎわ沿いて、庭の木戸から門までそれを持ち出さなければならなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
冬にも春にも日頃いつでも聞く街の声は一時に近く遠く聞え出したが、する程もなく、再び耳元近くブリキの樋に屋根から伝はつておち雨滴あまだれの響が起る。
花より雨に (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「英雄ポロネーズ」にしのぶポーランド華やかなりし中世騎士の勇姿、「雨滴あまだれのプレリュード」に示したすさまじくも美しい憂悶ゆうもんは、何に例えるものがあろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ひさしからおちる雨滴あまだれがしきりに吊り忍草の葉を叩き、きらっと光っては下へ落ちる。
契りきぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
小川屋のかたわらの川縁かわべりの繁みからは、雨滴あまだれがはらはらと傘の上に乱れ落ちた。びた黒い水には蠑螈いもりが赤い腹を見せている。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
冬にも春にも日頃いつでも聞く街の聲は一時に近く遠く聞え出したが、する程もなく、再び耳元近くブリキの樋に屋根から傳はつておち雨滴あまだれの響が起る。
花より雨に (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
新しい方はやや冷徹で繊麗で客観的でさえあるだろう。この中の一曲、「雨滴あまだれ」と呼ぶ十五番目の「前奏曲=変ニ長調」を比べると、その違いがよく解ると思う。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
大きな雨滴あまだれの落ちる木陰こかげを急いで此方こなたにやって来たが、二三歩前で、清三と顔見合わせて、ちょっと会釈えしゃくして笑顔を見せて通り過ぎた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
その時ショパンをとらえた不安と恐怖が、傑作「雨滴あまだれの前奏曲」になったのだと言われている。ショパンの幻想を誘った執拗な水滴の音は、住み古した家の天井に雨滴あまだれの音だったのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)