釉薬うわぐすり)” の例文
旧字:釉藥
素地とか釉薬うわぐすりとか、私はそこに卓越した彼を見ることができぬ。彼の焼物は私たちに、彼が陶工たるよりさらに画工であることを告げてはいまいか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
釉薬うわぐすりはどうか、色は……というふうに、各性質に分けて、そのひとつひとつについてしらべる、これが分析である。
その下の棚に青い釉薬うわぐすりのかかった、極めて粗製らしい壷が二つ三つ塵に埋れてころがっているのを拾い上げて見た。
ある日の経験 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
普通、諸国へだすものは、今も久米一の邸のそば日向ひあたりに、まだ火も釉薬うわぐすりもかけぬ素泥すどろの皿、向付むこうづけ香炉こうろ、観音像などが生干なまぼしになってし並べてあるそれだ。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
濃紅な釉薬うわぐすりの下からは驚くべき精緻さで、地に描かれた僧侶の胸像が透きとおって見える。
伊太利亜の古陶 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
窯でやかれた陶器の熱が冷めてゆくほど、釉薬うわぐすりの色はみずみずしく仕上るのに似た夏の夕であった。西の空の薔薇いろが薄れるに従っておお空と街とは真っ青に染め付いてゆく。
美少年 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
釉薬うわぐすりを流した黒い湖の面に、ちりばめたようにキャンプ・ファイヤーの火の色がうつり、風が流れると、それが無数の小さな光に細分され、眼もあやにゆらゆらとゆらめきわたる。
肌色の月 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
柔脆じゅうぜいの肉つきではあるが、楽焼らくやきの陶器のような、粗朴な釉薬うわぐすりを、うッすりいたあかと、火力の衰えたあとのほてりを残して、内へ内へと熱を含むほど、外へ外へと迫って来る力が
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
神道の神社で使うかかる器には、釉薬うわぐすりがかけてなくまたある種の場合の為には、全然轆轤ろくろを用いず、手ばかりでつくる。花がすこし、それから死人の名前を薄い板に書いたものも棚にのっている。
器物の上の方につけてあった釉薬うわぐすりが、焼いている間に適当に流れ落ちて面白いしまをつくり、所々に薬が結晶して、同心円の繊細な花模はながたが出来ているのである。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
それにこの暗さをおおう化粧土さえも用いた歴史がなく、また釉薬うわぐすりも色のえた瑞々みずみずしいものを用いたためしがなく、ただ赤土をうすくいて、これに灰を
多々良の雑器 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
きっと金沢の九谷くたにかどこかの廻し者で、色鍋島いろなべしま錦付にしきつけ釉薬うわぐすりの秘法を盗みに来たやつに相違ありません
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから屈托くったくそうに体をよじって椅子にかけて八角テーブルの上に片肘つきながら、新吉の作った店頭装飾の下絵の銅版刷りをまさぐる。壁のめ込み棚の中の和蘭皿の渋い釉薬うわぐすりを見る。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これまで、大ざっぱに土耳古トルコ系統の美術品として好んでいた精緻な唐草模様の銀細工、絨毯、あおと黒との釉薬うわぐすりの対照が比類なく美しい陶器などが、皆イラン人の製作であったのに伸子は驚いた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
用いる釉薬うわぐすりは他に例がなく、珊瑚礁さんごしょうから得られる石灰と籾殻もみがらとを焼いて作ります。おっとりした調子で、白土の上にでも用いますと、支那の宋窯そうようを想わせます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
鉄を含有するので、焼物の釉薬うわぐすりにすれば黒や柿に使える。質は荒いが火に強いので名がある。それ故よくこれで石竈いしがまを造る。焼かれる故古くなると堅くなるという。
野州の石屋根 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
辺の裏はややくぼみ支えるに便にしてある。形優れ、高台こうだい強く、素地もよく釉薬うわぐすりもよい。健全であって少しも病弱なところがなく、味わいは極めて柔かくかつ温かい。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ここで出来るもので水甕や蓋附壺によい品がありますが、甕で「利休りきゅう」と呼んでいる黄色い釉薬うわぐすりのがあります。この色は特別に美しくやや艶消つやけしの渋い調子であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
伊部いんべはもとより備前にある町の名であります。上に釉薬うわぐすりを施さず焼締やきしめたもので、色は茶褐色を呈します。これが渋いあじわいを示すので、早くから茶人の間に持映もてはやされました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
特に釉薬うわぐすりはその土地の材料を巧みに活かしていて、暖かい穏かな美しさであります。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
出来上ったものが即ち銅の釉薬うわぐすりである。窯に入れると美しい緑に生れ変る。それが昔から教わった法だという。今日の化学的な言葉でいえば、まさに炭酸銅である。だが不思議である。
日田の皿山 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あじわおおい宋窯そうように近いものがあり、有名な犬山等より一段といい。大体釉薬うわぐすりに特色があり、珊瑚礁さんごしょう籾殻もみがらとを焼いて作り、独特の柔味やわらかみを見せる。この釉薬こそは壺屋の大きな財産といえよう。
現在の日本民窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)