身代みのしろ)” の例文
すぐに駕籠を呼べとでも言いそうな気色けしきなので、治六はせんを越して八橋の身代みのしろを訊くと、次郎左衛門は知らないと言った。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
身代みのしろ金を払えばよし、払わぬ時にはあるいは殺し、または生かして土工となし、苦役くえきかせるという事じゃ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
されば、お送り遊ばされた数の宝は、彼等が結納と申そうより、俗に女の身代みのしろと云うものにござりますので。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
草笛の身代みのしろを、楼の主にわたして、不死人と共に、東国へ連れて行ってやることになっていたのである。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金子かねが入りますことゆえ、お富が叔母と相談して私を吉原の松葉屋へ娼妓に売り、その身代みのしろでお父さんの石塔を建てゝとむらい料にして下さいませんと、お父さんの耻になりますからと申しますと
その間も、フィラデルフィアのロス氏のもとへは、一通ごとに脅威を強調した誘拐ゆうかい者の手紙が、間断なく配達されていた。身代みのしろ金は、五万ドルにまでりあがっていた。もう一日の猶予ゆうよもならない。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
自分の胸だけで、もう決めていたような口吻くちぶりだった。清吉はむしろ思うつぼだった。百五十両が、この女の身代みのしろになるならばむしろ安値やすいものだという算盤そろばんが——無意識のうちに胸で働いていた。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)