身上みのうへ)” の例文
惜福は自己一身にかゝることで、聊か消極的の傾があるが、分福は他人の身上みのうへにもかゝることで、おのづから積極的の觀がある。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
諸手もろてをばいましめられたり。我身上みのうへは今や獵夫さつをに獲られたる獸にも劣れり。されど憂に心くらみたる上なれば、苦しとも思はでせくゞまり居たり。
さなきだに寝難いねがたかりし貫一は、益す気の澄み、心のえ行くに任せて、又いたづらにとやかくと、彼等の身上みのうへ推測おしはかり推測り思回おもひめぐらすの外はあらず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
『然うでしたか!』と、吉野はただ何か言はうとしたが、立入つた身上みのうへの話と気が付いて、それなり止めた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
私はまだその頃お信さんが何者であるか、その身上みのうへのことなど何一つ知つてゐなかつた。伯父の養ひ子だといふことはもとより、名前も知つてゐなかつたのだ。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
とお房は、おふくろに打付ぶツつけるやうにいふ。それからまたおふくろの身上みのうへ話が始まツて、其の前身は藝者げいしやであツたことが解ツた。身上話が濟むと貧乏話と來る。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ばあや、一飛びだ——何せよ、場所が場所だからナ、僕ア心配で堪まらぬのだ、大洞の伯父だの伯母だのツて、婆や、人間のつらしてる畜生なんだ、姉さんの身上みのうへに万一のことでもあつて御覧、の顔して人に逢はれるか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)