衝当つきあた)” の例文
旧字:衝當
色は白いが顔の地のあれた廿二三のおんな衝当つきあたりの六畳へ燈を点けて、こちらへと云うに貞之進はついて這入ると、この家はごと間ごと瓦斯を用いてある
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
賢ちゃんが吃驚びッくりして眼を円くした時、私は卒然いきなりバタバタと駈出し、前へ行く児にトンと衝当つきあたる。何しやがるンだいと、其児に突飛されて、又誰だかに衝当つきあたる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
どうやらそれを全く別の意味のものに変えることが出来るような、その人生の不思議に行って衝当つきあたった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
筏乗は悪く致すと岩角に衝当つきあたり、水中へおちるような事が毎度ありますが、山田川から前橋まで漕出こぎだす賃金はようやく金二円五十銭ぐらいのもので、長いかじを持ち筏の上に乗って
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
コリャこまった、今から引返すと却て引身ひけみになって追駈けられて後からられる、いっそ大胆に此方から進むにかず、進むからには臆病な風を見せると付上つけあがるから、衝当つきあたるように遣ろうと決心して
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
足元の荷車に衝当つきあたりかけて、ヒョイと飛退いて不審そうに、その荷車を打守った、渡邊は今朝から少からず悩まされた、馴れてはいるが今日の春日は大分変である、何の目的で歩いて居るのやら
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
騒動さわぎに気を取られて、文三が覚えず立止りて後方うしろを振向く途端に、バタバタと跫音あしおとがして、避ける間もなく誰だかトンと文三に衝当つきあたッた。狼狽あわてた声でお政の声で
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ちょうどその時起って手水ちょうずに行った女の、しょい揚の赤いのに疑念がかゝって、小歌ではあるまいかと用も無い椽境えんざかいの紙障しょうじをあけて、こちらへ這入ろうとするその女に衝当つきあた
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
一説に、彼は町はづれで油売に衝当つきあたつて、其油に滑つて、悟つたともいふ。静観庵じやうくわんあんとして今日迄残つて居るのは、この白隠の大悟した場処を記念する為に建てられたものである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)