蔦蘿つたかずら)” の例文
彼は草木や蔦蘿つたかずらを腕一ぱいにきのけながら、時々大きな声を出して、うなって行く風雨に答えたりした。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
追掛おいかけられて逃途にげどがないが、山之助年は十七で身が軽いから、谷間たにあいでも何でも足掛りのある処へ無茶苦茶に逃げ、蔦蘿つたかずらなどに手を掛けて、ちょい/\/\/\と逃げる。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いや、漂わせているのならい。漂わせていなくてはならないのに、自分は岸の蔦蘿つたかずらにかじり附いているのではあるまいか。正しい意味で生活していないのではあるまいか。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
見上げると、高い石の橋欄きょうらんには、蔦蘿つたかずらが半ばいかかって、時々その間を通りすぎる往来の人の白衣はくいの裾が、鮮かな入日に照らされながら、悠々と風に吹かれて行く。が、女は未だに来ない。
尾生の信 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と、尾生の鼻をかすめて、すずきらしい魚が一匹、ひらりと白い腹をひるがえした。その魚の躍った空にも、まばらながらもう星の光が見えて、蔦蘿つたかずらのからんだ橋欄きょうらんの形さえ、いち早い宵暗の中にまぎれている。
尾生の信 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)