萎靡いび)” の例文
環境が自然に発生させているマイナスによってこれまた自然発生的にそこなわれ、萎靡いびさせられ、未開発のまま消滅してしまう。
暴動はすべて、商店を閉ざし、資本を萎靡いびさせ、相場に恐慌をきたさせ、取り引きをめ、事業を遅滞させ、破産を招致する。金融は止まる。
家族のひとたちの様に味噌汁、お沢庵たくあんなどの現実的なるものを摂取するならば胃腑いふも濁って、空想も萎靡いびするに違いないという思惑からでもあろうか。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
椿岳の画の豪放洒脱しゃだつにして伝統の画法を無視した偶像破壊は明治の初期の沈滞萎靡いびした画界の珍とする処だが
ヘタヘタと誰も彼も降参気分になってしまったのでは其後がいけない、其家の士気というものが萎靡いびして終う。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
腹と尾に力を入れてまっしぐらに急進するが一番はやい故、専らその方を用いた結果、短い足が萎靡いびしてますます短くなる代りに、躯が蛇また蚯蚓みみずのごとく長くなり
まず、樊城の城内をうかがえば、すでにそこの敵は外部と断たれてから、士気もふるわず旗色も萎靡いびして、未だに魏の援軍とは連絡のとれていないことが分る。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかんとなればもし我が首級くび、巷なんどにさらされようものなら、宮方に志を寄せる者、萎靡いび沈滞するであろう、死せる孔明、生ける仲達を走らせたためしも唐土にある。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もちろん外にも大乗仏教国はあるけれども萎靡いび振わずしてほとんどその真面目しんめんもくを失うて居ります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
(他の時代だったら、彼らはおそらく国家の大人物となっていたろう。)——しかし彼らには信念もなく性格もなかった。享楽の要求と習慣と倦怠とに萎靡いびしきっていた。
もしさらに一二年を放置せば、心身ともに萎靡いびし終らんとす。坐視ざしするに忍びざるものあり。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その結果は視力の減退、血液循環の停滞、すべての知的能力の全般的萎靡いびと脱落とである。
女の器械は何時でも用に立つ。心持に関係せずに用に立つ。男の器械は用立つ時と用立たない時とある。好だと思えば跳躍する。嫌だと思えば萎靡いびして振わないというのである。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その結果は今日の如く堕落して萎靡いび振わず、其処そこへ比較的厳粛なる西洋の家庭に人と為った体質、精神共に強健なる小供が南洋を迂回して東洋に来り、これを圧迫したからたまらぬ。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
要するに幕府が鎌倉からして京都に移されるとともに、せっかく鎌倉に出来かけた新しい文明の気運はここに萎靡いびし果てて京都のみがまた旧のごとく文明の唯一中心となるに至った。
萎靡いびした工藝の運命は今個人的守護によって、その生命をわずかに保有する。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ゆえに知るべし。平民主義の勢力を逞しゅうするゆえんは人民の利益・願欲、これが鼓動者となるがゆえなり。貴族主義の萎靡いびするゆえんは人民の利益・願欲、これが反対者となるがゆえなり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
さすがの空想も萎靡いびして、狭い空間にせぐくまる。
否々、偽りの光でもって民衆を啓発すべきではない。そういう憲法のあなぐらの中では、主義は萎靡いびし青ざめてしまう。廃退は禁物である。妥協は不可である。
世間の普通の人とはちがった日暮しをして来た作家は、男でも、男らしさの感覚から萎靡いびさせられているのね。
パリー人の魂はこの劇の中に反映していた。そしてこの劇は、追従ついしょう的な画面のように、彼らの萎靡いびした宿命観、化粧室の涅槃ねはん境、柔弱な憂鬱ゆううつ、などのすがたを映し出していた。
すなわちそれから約一月——一月の日が経った時、義明を討たれて萎靡いび沈滞した、木曽の館を御嶽冠者の軍が、ほとんど一揉みに揉みつぶし、木曽の館を占領した時、その願望がとげられたのである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とにかく彼がそこにきたことは一つの恩恵であり、彼がそこにいることは天の賜物であった。マドレーヌさんが来る前までは、その地方はすべてが萎靡いびしていた。
一九三二年以来日本の社会的事情は急激に変化して、プロレタリア文学は退潮を余儀なくされ、その背後の社会的な力は同時にブルジョア文学をも著しく萎靡いびさせた。
ヒューマニズムの諸相 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
社交界の萎靡いび的影響を受けて、たちまちのうちに精力は鈍くなり、独特な性格は磨滅まめつしてゆく。クリストフは芸術家らのうちに、多くの死んだ者や死にかけてる者に出会って驚いた。
パリーはおそらく生長したであろうが、しかし一方フランスは確かに萎靡いびしたのである。
作家が客観的に全面的に押し出されていないと作品においても萎靡いびするというのは真実です。今日のような社会の雰囲気の中では、この点が実に実に決定的な意義をもっています。
それは現今の思想を萎靡いびさせ、強者をしいたげ利用している。
都市を清潔にするつもりで、実は住民を萎靡いびさしている。下水道は誤った考えである。