あと)” の例文
学べば大したあやまちはなかろうとおっしゃいました、孔夫子の聖を以てすらが、それでございます、凡人のあとうところではござりませぬ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
また自ら進んで適意の刺戟を求めあとうだけの活力を這裏しゃりに消耗して快を取る手段との二つに帰着してしまうよう私は考えているのであります。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時は焦ってはいかぬ、常時における若干の利益は得意よりの預り物と考えて、力のあとう限り辛抱し、預金の返済をするつもりで勉強することが必要である。
かれの任務は、時節のくるまで、世相を不安と頽廃たいはいとに、あとうかぎり、ただらせてしまうことにある。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女の体はあとうかぎり、弓なりに伸張する。斜め下へそらせた肩から、両腕が、同じ彎曲線わんきょくせんに添うて、地に届かんばかりに垂れる。反対の側では腿から足への彎曲がこれに対応する。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それにくらべると中背ではあるが異常に強壮な身体を持っている鼈四郎はあらゆる官能慾をむさぼるに堪えた。ある種の嗜慾しよく以外は、貪りあとう飽和点を味い締められるが故にかえって恬淡てんたんになれた。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あとうべくは以前むかしに倍する熱心もて伏侍ふくじするあり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
僕の研究癖というようなものがこうじて、日蓮について、まず現在のところであとうだけの研究をしてみたつもりだが、日蓮を研究して得たところのものは
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
全軍心にとめて、逃ぐる者は殺すな。益なき民家は焼くな。あとう限りに、刈入れまえの田はふみ荒すな
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余は人間にあとう限りの公平と無私とを念じて、栄誉ある君の国の歴史を今になお述作しつつある。従って余の著書は一部人士じんしの不満を招くかも知れない。けれどもそれはやむを得ない。
そして四、五騎の者だけで、あとうかぎり断崖の際の近くまで馬を歩ませてみた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)