耳立みゝだ)” の例文
なかに一人ちよつぴり鼻の尖つた狐のやうな表情をした、商人あきんどらしい男が、口汚くウヰルソンをのゝしるのが、殊更ことさら耳立みゝだつて聞えた。総長某氏はしやくにさへて口を出した。
朝顔あさがほの花が日毎ひごとに小さくなり、西日にしびが燃えるほのほのやうにせま家中いへぢゆう差込さしこんで来る時分じぶんになると鳴きしきるせみの声が一際ひときは耳立みゝだつてせはしくきこえる。八月もいつかなかば過ぎてしまつたのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)