老爺じじい)” の例文
武男が入り来る足音に、老爺じじいはおもむろに振りかえりて、それと見るよりいささか驚きたるていにて、鉢巻はちまきをとり、小腰をかがめながら
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「鶏を……。誰にられたろう。又、銀山の鉱夫の悪戯いたずらかな。」と、若い主人は少しく眉をひそめて、雇人やといにんの七兵衛老爺じじいみかえった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
到る処に白首しらくびの店が、押すな押すなで軒を並べて、弦歌げんかの声、湧くが如しだ。男も女も、老爺じじい若造わかぞうも、手拍子を揃えて歌っているんだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
老爺じじいは泰然たる返答へんじをして、風呂場を見に行った。乃公はきりんだ穴を見つけられると困るから、直ぐ二階へ上って本を読み始めた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「そう言えば、あの小汚い老爺じじいもどこかで見ましたよ。何かの弾みで、二三本しか残らない歯を出して笑う顔が——」
間抜まぬけな若旦那も乗て居れば、頭の禿はげ老爺じじいも乗て居る、上方辺かみがたへん茶屋女ちゃやおんなも居れば、下ノ関の安女郎やすじょろうも居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それがまた、冬ばかりじゃあない、てんで火の気なんぞのいらないような真夏でさえもなんですからね。あの老爺じじいは食事の支度をするんだと言っているんです。
暗くなった町を通って、家へ入って行った時、店の入口で見慣れぬ老爺じじいの姿が、お島の目についた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
老爺じじい対手あいてじゃ先行さきゆきがしない。し、直接じかづけ懸合かけあおう。」とふいと立って奥へずかずか。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
来て見るとの始末で、仔細わけは知らぬが七兵衛老爺じじいの箒のもとに、一人の女が殴り倒されているので、めずにはられぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
殺された老爺じじいは傍にきざみの煙草盆を引寄せていたというのだから十中八九、これは犯人が吸い棄てたものではないか……しかも半分以上残っているところを見ると
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
四五日しごんち前——」と言いかけしが、老爺じじいはふと今の関係を思いでて、言い過ぎはせざりしかと思いがおにたちまち口をつぐみぬ。それと感ぜし武男は思わず顔をあからめたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「いや、僕は心配になりますから、訊きに行ったんです。あの老爺じじいは頑固ですよ。果して君が末席になるようなら、君が一年おくれるのは神さまの意志で仕方がないと言いましたぜ」
首席と末席 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「蓼斎があの晩、川越屋の裏のあたりをウロウロしている老爺じじいを見たんだそうですよ」
「随分酷いのね。」と、お葉は落葉を掴んで起上おきあがったが、やがて畜生ちきしょうと叫んで、その葉を七兵衛の横面よこつらに叩き付けた。眼潰めつぶしを食って老爺じじいも慌てた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
現場げんじょうを見なければ判然わからないが、その秘密の現金を狙った奴が、わざと老爺じじいに上等の下駄をあつらえて
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さては帰京せしかと思いわびつつ、裏口より入り見れば、老爺じじい一人ひとり庭の草をむしりつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)