群衆ぐんじゅ)” の例文
時自体は、考えれば考えるほど取りとめのない抽象的観念の群衆ぐんじゅに陥るもので、じっと黙って考えるには、あまりに恐ろしいものである。
千年の時差 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
広い会所の中は揉合うばかりの群衆ぐんじゅで、相場の呼声ごとに場内は色めきたつ。中にはまた首でもくくりそうな顔をして、冷たい壁にしょんぼもたれている者もある。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
新川なる酒蔵に丈余を超ゆる雪達磨つくられ、その達磨、翌る花咲くころ迄溶けやらずして、見物群衆ぐんじゅせり——といふ話などおもひあはされ、なつかしかりき。
滝野川貧寒 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
岸の上では群衆ぐんじゅが俄にどよめいた。天狗か何か知らないが、化鳥けちょうがつばさを張ったようなひとむらの黒雲が今度は男山おとこやまの方から湧き出して、飛んでゆくように日の前をかすめて通ったのである。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
寂照が願文がんもんを作って、母の為めに法華ほっけ八講はっこうを山崎の宝寺にしゅし、愈々本朝を辞せんとした時は、法輪さかんに転じて、情界おおいに風立ち、随喜結縁けちえんする群衆ぐんじゅ数を知らず、車馬填咽てんえつして四面を成し
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)