絆創膏ばんそうこう)” の例文
と、お春が盆の上に、消毒した注射器、ベタキシンの箱、アルコールのびん、脱脂綿入れ、絆創膏ばんそうこう、等々を載せて這入はいって来た。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それにまだふしぎなことは、その三、四時間のあいだに、赤ン坊のできものは、ガーゼや絆創膏ばんそうこうでりっぱに手当がほどこされてあったというのです。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
絆創膏ばんそうこう、衣服の修繕の糸や針、そういうものが、人々の手から手に取り交わされた、谷川の清い水で、鍋や茶碗が充分に洗われた、この日の夕餉ゆうげはうまかった。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
崩れかかった重病者の股間に首を突っ込んで絆創膏ばんそうこうを貼っているような時でも、決していやなかおを見せない彼は、いやな貌になるのを忘れているらしいのであった。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
その下のラクダの襯衣シャツは両方とも、同じ左腕上膊部を二枚重ねて横に三寸程鋏様はさみようのものでり裂いてあって、そこから注射をした痕は、絆創膏ばんそうこうを貼ってないために
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今日までは伯水老人という、年こそちがえ商売こそちがえ、身近に杖柱ともゆかないまでも転んですりむいたらすぐに絆創膏ばんそうこうくらい貼ってくれる人があったからいい。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
唯今ただいま絆創膏ばんそうこうを差上げます。何しろ皆書生でございますから随分乱暴でございませう。故々わざわざ御招おまねき申しましてはなはだ恐入りました。もう彼地あつちへは御出陣にならんがよろしうございます。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ガーゼを絆創膏ばんそうこうでとめて、それ丈けでは承知が出来ず、床についてしまって、わしが見舞に行っても、腫物のない鼻の上丈けを夜具の襟から出して物を云うという、いじらしい有様であった。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
口の利けず、耳の聞えない医師は、最後に大きいガーゼをあてて、その周囲を絆創膏ばんそうこうで止めると、遂に一語も発しないで、部屋を出ていった。孫も王も、医師を見送るためにこの室から出た。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「何よりもまず病人の気をいら立たせてはいけません、」と彼は繰り返し言っていた。絆創膏ばんそうこうでガーゼや繃帯ほうたいを止める仕方は当時まだ見いだされていなかったので、手当ては複雑で困難だった。
春子は、その日絆創膏ばんそうこうを貼りながら、いかにも嬉しそうに言った。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
(右の上膊部じょうはくぶ絆創膏ばんそうこうってあるのは誰かに注射されたのらしいが児玉先生でも呼んだのだろうか)
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「あなたは、机にむかったままで眠ってらっしゃるし……平松さんは、その寝台にもたれて、絆創膏ばんそうこうなんぞもったまま、眠っていらっしゃるし………どうなさったのかと思いましたわ」
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
注射の後で絆創膏ばんそうこうを貼った形跡もないのが第一奇怪と云わなければならぬ。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)