糸鬢奴いとびんやっこ)” の例文
糸鬢奴いとびんやっこ仮髪かつらを見せ、緋縮緬ひぢりめんに白鷺の飛ちがひし襦袢じゅばん肌脱はだぬぎになりすそを両手にてまくり、緋縮緬のさがりを見せての見えは、眼目の場ほどありて、よい心持なり。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
前髪まえを剃上げて見せたということだから、以前せんの頭はあんまり縁起のい頭じゃアございません、首実検のための頭だと云います、それから追々剃りまして糸鬢奴いとびんやっこが出来ましたが
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これが苦労の一つである。またこの界隈かいわいではまだ糸鬢奴いとびんやっこのお留守居るすい見識みしっている人が多い。それを横網町の下宿にやどらせるのが気の毒でならない。これが保の苦労の二つである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
太郎はこう言って、糸鬢奴いとびんやっこの頭を仰向けながら自分もまた笑い出した。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
色々ふけえ思召があるんだから、わっしも大旦那のおわけえ時分、まだ糸鬢奴いとびんやっこの時分から、甲州屋のお店へ出入りをしてえて、おめえさんとも古い馴染だが、今度来やアがった番頭ね、彼奴あいつが悪い奴なんだ
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
衣類を黒紋附もんつきに限っていた糸鬢奴いとびんやっこの貞固は、もとより読書の人ではなかった。しかし書巻を尊崇そんそうして、提挈ていけつをそのうちに求めていたことを思えば、留守居中稀有けうの人物であったのを知ることが出来る。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)