秘奥ひおう)” の例文
「草に寝、石を枕にし、山々谷々、悪獣毒蛇をものともせず、ただ剣の道の秘奥ひおうをさぐるために、わしを求めて遍歴するだろう」
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかるに最も多く人世を観じ、最も多く人世の秘奥ひおうきわむるという詩人なる怪物の最も多く恋愛に罪業ざいごうを作るはそもそ如何いかなる理ぞ
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
法外流居合の秘奥ひおう「駕籠飾り」——その刀を刺した駕籠が何十本となく、光るかんざしで飾られた女の髪のように見えるところから来た、名称だった。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのなかで、高く着物を押さえた女たちが、卓子テーブルから卓子へ移って秘奥ひおうをつくし、男たちはすべて、誰もかれも無関心らしく頬杖ほおづえなんか突いていた。
彼は非常に骨折って、はっきりと個々の事柄を少しずつ聞き出した。そして、ブラウンのごく軽率な好人物的性質のおかげで、その生活の秘奥ひおう垣間かいま見ることができた。
Kama Sutra や Ananga Ranga にでてくるような、閨技けいぎ秘奥ひおうや交合の姿態などを細密に説いて、旦那マスターがたをよろこばせ、若い夫人たちの顔をあかくするのを
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
唯識論ゆいしきろんとか、百法問答しょうとかいう難解なものすら、十二歳のころに上げてしまったし、十五歳の時には、明禅法印めいぜんほういんから、密法みっぽう秘奥ひおうをうけて、かつて、慈円僧正が大戒だいかいを授けた破例を
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬券の奥堂に参ずるは、なお剣、棋の秘奥ひおうを修めんとするが如く至難である。
我が馬券哲学 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
つまり行より心ができて剣意の秘奥ひおうにかなわなければ、手裏剣を投じて一家をなすことは不可能なのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼はその眼瞼まぶたを開いて、その下に隠れてる思想を、人からも知られずまたおそらくみずからも知らないで去っていったこの魂の秘奥ひおうを、どんなにか読み取りたかった! しかしこの魂自身は
しかし、その後には、権律師胤舜ごんりつしいんしゅんどのが、宝蔵院流の秘奥ひおうをうけ、二代目の後嗣こうしとして、今もさかんに槍術を研鑽けんさんして、多くの門下を養い、またう者はこばまずご教導も下さるとか伺いましたが
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きょうの若松屋惣七は、むかし星影一刀流に落葉返しの構えを作り出したように、金銭の取り引きに、彼独特の一つの秘奥ひおうを編み出している。悟りをひらいている。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かれはその得意とする大業物わざものを打つに当たって、みずから半生を費やして編み出した血涙の結晶たる大沸おおわかし小沸こわかしならびにやいば渡しという水火両態の秘奥ひおうを、ひそかに用いたのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)