確乎しっか)” の例文
悄然しょうぜんとして項垂うなだれていた小野さんは、この時居ずまいをただした。顔を上げて宗近君を真向まむきに見る。ひとみは例になく確乎しっかと坐っていた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒鹿毛くろかげくらつぼへ踏みまたがった自分の胴脇へ、遠目にも派手やかな古代紫の太紐ふとひもで、八雲のからだを確乎しっかとくくりつけていた。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……美しい手で確乎しっかと椅子の腕を握り、じっとして思索に耽っている時のまじめな眠りを催すような静寂。体は横の方へ垂れ、頭は他方の手でささえて、眼は鈍い焔のように見える。
エレオノラ・デュウゼ (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
と、結ばれた天縁に対して、大きなよろこびと、そして臨終いまわの間際までも、確乎しっかとした生きがいを感じているのであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
好きだというような気持のほうが多分で、確乎しっかりした論拠と実証を持たないでの言葉であった。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「だ、だからですよ! 父上——」と、義平太は、のり出して、確乎しっかと、父の手をにぎりしめ
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おりまする。こうして、確乎しっかと、殿のおからだをお抱き申しあげておりまする」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御仏みほとけ膝下ひざもと確乎しっかとすがりつきたいのです、おゆるしください、しばらくのあいだ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが——それを確乎しっかと抱え込むと、今度は、体が彼の思うように浮かなかった。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして背中には、なにやら重たげな包みを確乎しっかと背負っている。その頑健な肩といい、腰ぼねといい、どうして、五十を越えた奈良井の大蔵であるものか——と、思われぬでもなかった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「雑人、鞭を貸せ」覚明が、牛飼の鞭を奪って、百万の魔神もこの輦の前をはばめるものがあれば打ち払っても通らんとおおきな眼をいからすと、性善坊も、八瀬黒の牡牛おうしの手綱を確乎しっかにぎって
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「十郎っ、確乎しっかりせいっ。——相手は誰だ、相手は、どっちへ行った?」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わしがその折、御名号を書いて与えたが、見ると、今朝気を失うている折も、確乎しっかと、それをふところに抱いていた。——やがて、弟子衆の介抱で、われにかえると、さめざめ泣いてばかりおる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『大儀』と、確乎しっかり踏みながら出迎えに云った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)