ねぶ)” の例文
覺えて鹽尻峠しほじりたふげも馬に遊ばんと頼み置きて寐に就く温泉にてつかれを忘れ心よくねぶりたれば夜の明けたるも知らず宿の者に催されてやうやくに眼を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
思ふことは多し、我れは世を終るまで君のもとへ文の便りをたゝざるべければ、君よりも十通に一度の返事を與へ給へ、ねぶりがたき秋の夜は胸に抱いてまぼろしの面影をも見んと
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
思いのほかにたやすくはこびけるよ、とひそかに笑坪えつぼに入りて目をあげたる山木は、目を閉じ口を結びてさながらねぶれるごとき中将の相貌かおを仰ぎて、さすがに一種のおそれを覚えつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そうしてねぶたもまたある亡霊のわざであることを忘れかかって、別にそういう名のいまわしいものが、独立してあるかの如く考え出したのは、さして珍しくもない信仰の分化であった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
黄金丸は鷲郎とおもてを見合せ、「ぬかり給ふな」「脱りはせじ」ト、互に励ましつ励まされつ。やがて両犬進み入りて、今しも照射ともしともろともに、岩角いわかどを枕としてねぶりゐる、金眸が脾腹ひばらちょうれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
彼はこれのみ開封せずして、やがて他の読壳よみがらと一つに投入れし鞄をはたと閉づるや、枕に引寄せて仰臥あふぎふすと見れば、はや目をふさぎてねむりを促さんと為るなりき。されども、彼はねぶるを得べきか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
思ふことは多し、我れは世を終るまで君のもとへ文の便りをたたざるべければ、君よりも十通に一度の返事を与へ給へ、ねぶりがたき秋の夜は胸にいだいてまぼろしの面影をも見んと
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
武男を怒り、浪子を怒り、かの時を思いでて怒り、将来をおもうて怒り、悲しきに怒り、さびしきに怒り、詮方せんかたなきにまた怒り、怒り怒りて怒りの疲労つかれにようやくねぶるを得にき。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
とかうして車に乘れば醉とつかれにウト/\とねぶりかけしがガタリと車は止りて旦那こゝが小野の瀧でござりますと云ふ心得たりとり立しが泥濘ぬかりみちに下駄はたゝずバタリと轉べば後より下りし梅花道人またバタリ泥に手を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
良人をつと今宵こよひかへりのおそくおはしますよ、はやねぶりしにかへらせたまはゞきようなくやおぼさん、大路おほぢしもつきこほりてあしいかにつめたからん、炬燵こたつもいとよし、さけもあたゝめんばかりなるを
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
はじめしが酒は一時間過てもまだ來ず茶に醉ふてかフラ/\と露伴子はねぶり梅花道人は欠伸あくびするに我は見兼ね太華山人と共に旅人宿はたごやへ催促と出かけしにぢきに門前にて只今持ち參るの所なりといふ寺も早や興盡きてさぶき
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)