目眩まぶ)” の例文
でも、取り澄ました気振りは少しも見えず、折々表情のない目をげて、どこを見るともなくみつめると、目眩まぶしそうにまた伏せていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
男のやうに太いその指のさきを伝うて、彼等のひとみの落ちたところには、黒つぽい深緑のなかに埋もれて、目眩まぶしいそはそはした夏の朝の光のなかで
何十年振りでまた読み返すとちょうど出稼人が都会の目眩まぶしい町から静かな田舎の村へ帰ったような気がする。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「おしお、もう何にも言ってくれるな」と、小平太は相手の顔を見ぬように、目眩まぶしそうに眼をそらしながら言った。「わしは、わしは討入うちいりの数にれたのだ!」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
喰い取られたように黒くむしばみ、上半分は夕日で黄に染まって、枯木にまで、その一端が照り添って、目眩まぶしいように、顔をむけたかと見えたが、またカッキリと白く
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
籠の鳥は、目眩まぶしい電燈に照らされてきよろ/\してゐた。兄が広間へ入つて寝たのは、それから二時間もたつてからであつた。
籠の小鳥 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
いわゆる女にしても見ま欲しいという目眩まぶしいような美貌で、まるで国貞くにさだ田舎源氏いなかげんじの画が抜け出したようであった。難をいったら余り美くし過ぎて、丹次郎たんじろうというニヤケた気味合きみあいがあった。
切立ての銘撰めいせんの小袖を着込んで、目眩まぶしいような目容めつきで、あっちへ行って立ったり、こっちへ来て坐ったりしていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
外は大分春らしい陽気になって、日の光も目眩まぶしいくらいであった。お作の目には、坂を降りて行く、幾組かの女学生の姿が、いかにも快活そうに見えた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
帰りにみんなは上野をぶらぶらした。池には蓮がすっかり枯れて、舟で泥深どろぶかい根を掘り返している男などがあった。森もやや黄ばみかけて、日射ひかげ目眩まぶしいくらいであった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
時計が九時を打ってから、やっと二階から降りて来たお増は、明るい階下したの光に、目眩まぶしそうな目をして、火鉢の前に坐ると、口も利かずに、ぼんやりと莨をふかしていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
外には真夏の目眩まぶしい日が照っていたが、木蔭の多い家のなかは涼しい風が吹き通った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
事務員が、寝飽きたようなれぼッたい顔をして、暗い三畳の開き戸を開けて出て来た。そして目眩まぶしそうな目をこすった。ほころびた袖口からは綿がみ出し、シャツの襟もあかあぶらで黒く染まっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
夢幻ゆめうつつのような目を目眩まぶしい日光につぶっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)