くぎ)” の例文
旧字:
眼を上げると、そこに、本願寺の屋根の破風が、暮れ残ったあかるい空を、遠く、泪ぐましくくぎっていたのである……”
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
舞台は、桜の花など咲いた野外が好ましいが、室内で装置する場合には、緑色の布を額縁としてくぎり、地は、春の土を思わせるような、黄土色の布か、緋毛氈ひもうせんを敷きつめる。
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
夜明けの来る東の方は茫洋ぼうようたる平原であった。平原は淡い紫の一色に塗りつぶされて、目の下をくぎって、はるかな中央の山脈が峰々の曲線を青く浮きあがらせる。朝あけであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
私共の住んでゐた上田うへだの町裾を洗つてゐる千曲川ちくまがはの河原には、小石の間から河原蓬かはらよもぎがする/\と芽を出し初めて、町の空をおだやかな曲線でくぎつてゐる太郎山たらうやまは、もう紫に煙りかけてゐた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
勿論、神経は、そこに未だ沢山の葉が房々と空をくぎっていることも、幹は太く、暗緑色に眼路に聳えていることも、視ている。然し、心は、その物質を越えて普遍な空気の魅力を直覚する。
透き徹る秋 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そしていつも其風景の補ひをする街樹がいじゆがひどく寂しい梢で空をくぎつてゐた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
仔細しさいに見れば、町というには名ばかりであるが、家々が、木目の白さを競っていた。しかし、官宅の堂々さに比して、東西にくぎる火防線をさかいにした南の町地には、昔のままの草葺くさぶき小屋も雑居していた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
紺青の夜空を、天の川が白くにじんで二つにくぎっていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)